井上尚弥、3階級制覇の舞台裏と幻のフライ級挑戦 大橋会長「今頃4階級王者だった」
幻となったフライ級王座への挑戦「今頃は4階級制覇だったんだと思います」
──話はさかのぼりますが、井上選手の出世試合である2014年12月のオマール・ナルバエス戦のときのマッチメークはどうだったのでしょうか。いきなりの2階級アップでファンを驚かせました。これも相手がいなかったから2階級上げたのでしょうか?
「いや、あのときは最初、2階級上げるつもりはなくて、1階級上げてフライ級でWBA王者のフアン・カルロス・レベコに挑戦する話がついていたんです。ただ、レベコは試合間隔が短く、もし前の試合でけがをしてしまったら日本に来ることができなくなるかもしれない。そういう状況で、アルゼンチン側から同胞のナルバエスなら確実だ、という連絡が入りました」
――ナルバエスはスーパーフライ級の強豪として知れ渡っていましたね。
「ナルバエスは尚弥の2階級上のスーパー・フライ級です。名王者だとは知っていましたが、映像も見ていないし、断ろうかと思っていました。それで一応、尚弥に聞いてみたら、二つ返事で『やります。自信あります』って言うんですよ。びっくりしたんですけど、だったらやってみようということになりました」
──1階級飛び越えてのスーパーフライ級転向は他人を驚かせることが好きな大橋会長のアイデアだと思っていたのですが……。
「違いますね。あれは尚弥が自分で決めたんです。結果的に大正解でした。ただ、あのとき1階級飛ばさないでレベコに挑戦して勝っていたら、今頃は3階級制覇ではなく、国内では例のない4階級制覇だったんだなとは思いますけど」
やりたい相手との試合が常に組めていれば……。井上は今頃、日本人初の4階級王者になっていたかもしれない。なかなか強者同士の対戦が実現しない昨今のボクシング界にあって、第3回は「負けて強くなる」大橋流のハードなマッチメークについて。生涯無敗の伝説的王者、リカルド・ロペス(メキシコ)と対戦した自身の経験や、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に挑戦した八重樫東を例に“無敗至上主義”に真っ向から反論した。(続く)
【第1回】井上尚弥、強すぎるがゆえの悲哀 大橋会長の苦悩「今は勝てそうな王者を選べる」
【第3回】井上尚弥は逃げない 大橋会長が語るマッチメークの流儀「負けを恐れる必要ない」
【第4回】井上尚弥、適正階級はスーパーバンタム!? 大橋会長が描く将来像「37歳まで現役なら」