やり投げ金・北口榛花、孤独とも闘ったチェコ生活 17歳で描いた「世界一の夢」で乗り越えた
第14回は、25日(日本時間26日)の女子やり投げ決勝で金メダルを獲得した25歳の北口榛花(JAL)。昨年大会銅メダルの日本記録保持者は、最終投てきの66メートル73で4位から大逆転した。日本女子では全種目を通じて26年ぶり、トラック&フィールド種目初の金メダル。競技を始めて10年で世界一にたどり着くまで、武者修行で過ごしたチェコでは孤独を感じる日々だった。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
ブダペスト世界陸上連載「陸上界の真珠たち」第14回
ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。
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第14回は、25日(日本時間26日)の女子やり投げ決勝で金メダルを獲得した25歳の北口榛花(JAL)。昨年大会銅メダルの日本記録保持者は、最終投てきの66メートル73で4位から大逆転した。日本女子では全種目を通じて26年ぶり、トラック&フィールド種目初の金メダル。競技を始めて10年で世界一にたどり着くまで、武者修行で過ごしたチェコでは孤独を感じる日々だった。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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力いっぱいに叫んだ。言葉にならない声で叫んだ。顔はくっしゃくしゃ。涙か、汗かわからない。北口がついに世界一の夢を叶えた。
「つらいことがたくさんあるけど、今日だけは本当に世界で一番幸せです」
奇跡の大逆転だった。1投目にルイス・フルタド(コロンビア)がいきなり65メートル47をマーク。北口は追う展開となったが、1投目で右ふくらはぎがつるアクシデントに襲われた。3投目に63メートル00を出して2位に浮上。3位に後退して迎えた4投目から伸ばせなかった。最終6投目にマッケンジー・リトル(豪州)が63メートル38。北口は4位に転落した。
「良くても、悪くても、後悔しないように。私は最終投てきに強いと言われてきた」
両手を頭上で叩き、観客の拍手を煽った。呼吸を整え、真っすぐに見つめたフィールド。「私は本当に強いんだ」。夜空に舞い上がったやりは、この日一番の放物線を描いた。ブダペストの夜空を切り裂く一本のやり。地面に突き刺さった瞬間、世界の観客に火をつけた。
大逆転を確信。チームが座る観客席へと振り向き、飛び跳ね、とにかく叫んだ。日本女子では、1997年アテネ大会女子マラソンの鈴木博美以来となる世界陸上金メダル。2大会連続のメダルも日本女子初の快挙だ。
「嬉しすぎて体が軽い。ふわふわ浮いているんじゃないかっていうくらい。現実だけど、本当にできたんだな」。他の競技は行われていない。数万人の視線を独り占め。就いたばかりの世界一の座は心地よかった。
「本当はもっと時間がかかると思っていた。今まで頑張って本当に良かったと思う。自分が必ず歴史をつくると決めてここにやってきた。ハンガリーのお客さんは国籍とか関係なく拍手をしてくれる。誰もやったことのないことをやったし、たどり着かなかったところにたどり着けてよかった」