「互いに傷つけ合った数日間」 田中希実が仲間と意味ある衝突、魂の日本記録の裏側【世界陸上】
1500m敗退で葛藤「いろんな人を不快にさせた」
大会中も葛藤があった。東京五輪で8位入賞した3日前の1500メートル準決勝は組12着、全体23番手でともに最下位(1人途中棄権)で敗退。「(国内外で)いろいろ試しながらやってきたけど、全部自分のため(自分が中心)のレース。井の中の蛙だった」。勝負をかけた夏だけに、失意から簡単に切り替えられない。
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「どう乗り越えていいのか、誰もが通る道だと思う。だからこそ、自分で消化するべきなんじゃないか。でも、やっぱり一人で戦っているんじゃない。いろんな人の力を借りたいし、借りるべきだけど、自分は力の借り方が下手。誰のことも凄く傷つけるような言動をしてしまう」
コーチの父・健智さんなどチームに感情を吐露。「帯同してくださった方、日本陸連のコーチ陣も凄く心配させてしまった。日本にいる人にも凄く重いメッセージを送りまくり。いろんな人を不快にさせたり、心配させたりしていた」。まだ23歳の社会人2年目。そんな衝突にも意味がある。ともに乗り越えたからこそ、感謝が生まれた。
「互いに傷つけ合いながら、支え合いではなかった数日間だった。一緒に苦しみ抜いてくださった方がいたことで、今日はスタートラインに立てたし、最後まで走りきれたと思う。自分自身、学びになった。人におんぶに抱っこじゃなく、もっと人として成長して、自分でも『大丈夫だよ』というところを見せれるような選手になりたいと改めて思いました」
昨年オレゴン世界陸上は日本人初の個人3種目に出場。1500メートルは日本人過去最高の準決勝組6着ながら敗退、800メートルは予選落ち、5000メートルは決勝12位に留まるなど涙を流す結果となった。4月からNew Balanceに所属し、覚悟を決めてプロ転向。6月の日本選手権は1500メートルと5000メートルでぶっちぎって史上初の2年連続2冠を達成し、ケニア合宿などを挟んで今大会を迎えた。
「ケニアでトレーニングした分、黒人選手に対する気持ちの怖さは薄れてはいた。だけど、やっぱりこのメンバーで最後まで振り落とされずに走れるのかなという不安があった。でも、最後まで走れた。それはケニアに行ったからこそ。不安があっても無意識に足が動く状態はつくれたのかな」
決勝は26日(日本時間27日)、日本人過去最高位は1997年アテネ大会8位の弘山晴美。「今度はどこまで勝負できるか。今日はタイムが出たので、あとは怖いものはない。決勝を走れる喜びを胸に最後まで駆け抜けたい」。26年ぶりの入賞はなるか。2023年夏、また一つ殻を破った田中の挑戦は終わらない。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)