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「互いに傷つけ合った数日間」 田中希実が仲間と意味ある衝突、魂の日本記録の裏側【世界陸上】

ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。

世界陸上・女子5000m予選で日本記録を出した直後の田中希実【写真:奥井隆史】
世界陸上・女子5000m予選で日本記録を出した直後の田中希実【写真:奥井隆史】

ブダペスト世界陸上連載「陸上界の真珠たち」第11回

 ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。

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 第11回は、23日(日本時間24日)に衝撃の日本記録を叩き出した田中希実(New Balance)。女子5000メートル予選で従来を15秒近く上回る日本新記録14分37秒98の2組6着で決勝進出を決めた。1500メートル準決勝敗退の雪辱を目指したレース。中2日の間にチームに感情を吐き出し、苦しみを共有しながら乗り越えたことを告白した。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 大会前、ファンを思い、メディアの前で誓った言葉がある。「どんなことがあっても全力で臨む姿は変えない」。ここで逃げるわけにはいかない。言葉を体現した魂の激走だった。

 スタートラインに立った田中は、カメラにポーズを取らない。下を向いて高めた集中力。真価が問われる号砲が鳴った。前に出たのは、いつもは後方待機の鉄人女王シファン・ハッサン(オランダ)。いきなり勝負を仕掛け、田中は憧れのランナーにくらいついた。5番手前後で進め、1000メートル手前から女王の真後ろに。眠った実力が引き出されるように勢いを引っ張られた。

 3000メートルで5番手につけ、周りはハッサンのほかケニア2人、エチオピア2人のアフリカ勢。6人の先頭集団でふるいにかけられた。でも、逃げない。日本記録ペースを上回り、失速の可能性がよぎったラスト1000メートル。「最後まで意地でも順位を落とさない」。終盤でスパートした集団。残り200メートルで引き離された。

 フィニッシュラインに飛び込んで6着。2021年廣中璃梨佳の日本記録14分52秒84を15秒近くも更新する14分37秒98。10秒後、記録を刻んだ電光掲示板の前で仰向けにぶっ倒れた。

「タイムとしては今の100点満点。走りながら、このまま失速しても日本記録だと思ってはいた。でも、そうなると(予選通過の)着が取れないし、そういう日本記録は嬉しくない。離されそうになった時は日本にいる皆さんや、現地で支えてくださっている皆さんが『自分を信じて』と言ってくれた言葉を信じて最後まで走り切ることができました。

 ハッサン選手が行ってくれたことで迷いなくつけた。最後まで行き切ってくれたおかげ。ぶら下がる形にはなかったけど、世界の背中を見ながら最後まで走ることができた」

 2019年の初出場では15分00秒01。「14分40秒台はすぐに行くんじゃないかなと思っていた」。レースのたびに更新していた記録は次第に頭打ちに。「年々、自分の理想値ばかりが上がっていった。でも、実際はかけ離れていた。それがやっと合致した」。7月に自己ベスト14分53秒60。そして、たまったフラストレーションを噴射するような大幅更新した。

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