ラグビーW杯メンバー争いが激化 6月から“45→33人”選考開始、日本代表HCの思惑とは
昨秋のイングランド戦で露呈した守備面での課題
最初に挙げたセットピース。中でもスクラムでは、昨秋のイングランド戦の苦い記憶がある。スクラム成功率では85.7%と、W杯プールDでの対戦が決まっている相手の75%を上回った日本だったが、要所のスクラムで重圧を受けたことが13-52という完敗の要因の1つだった。同じくD組で戦う強豪アルゼンチンも、伝統的にスクラムにこだわってきたチームだ。このエリアで重圧を受けると、プール戦突破へ相当困難な戦いを強いられることになる。
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2つ目のキックは、指揮官が指摘したように、イングランドは身長196センチのFB(フルバック)フレディ・スチュワード、アルゼンチンのベテランWTB(ウイング)エミリアノ・ボフェッリも191センチと、空中戦に強みを持つ選手を揃えている。アルゼンチンはさらに、成長著しい24歳のSO(スタンドオフ)サンティアゴ・カレラスが、滞空時間が長く、コントロールされたキックを駆使して昨秋のイングランド戦金星の原動力になるなど、キッキングゲームで進化を見せている。
防御に関しても、イングランド戦で興味深い数値が残されている。この試合はボール保持率、時間や地域支配など多くのデータでは日本が上回っているのだが、39点差の大敗に終わった。データ上での日本の負の数値で見てみると、敵陣22メートルライン内に侵入しての得点率が、日本の1.9点(1回の侵入での平均得点)に対してイングランドは3.2点と約1.7倍になっている。日本の得点力の低さも気がかりだが、対戦相手に攻め込まれると、比較的容易にスコアを許していることを示している。
指揮官の挙げた3つのポイントは、すべて一朝一夕に克服できない課題ではあるが、W杯キックオフまでのカレンダーを見れば、ポジティブな要素もある。過去のコラムでも触れてきたように、W杯へ向けた準備時間に関しては、日本ほど豊富に持てるチームは多くない。7月が各国テストマッチ期間になったことで、どのチームも大会2か月前の1か月間は活発に動けるのは確かだが、多くの各国代表選手を抱えるフランスTOP14は決勝が6月17日、イングランド・プレミアシップは5月27日、そして南半球のスーパーラグビーパシフィックは6月3日にレギュラーシーズンを終えてからプレーオフが始まる。それに対して日本は5月でリーグワンを終えて、代表チームとして6月9日からW杯開幕までの13週間の大半を強化に充てられることになる。この豊富な時間をかけて3つの課題を整備して、同時に日本代表特有の精緻な攻守の組織力を磨き上げていくことになる。