田中希実の誰も否定できない3種目挑戦 涙で終わった10日間、闘い続けた「恐怖」の感情【世界陸上】
オレゴン世界陸上が23日(日本時間24日)、米オレゴン州ユージンのヘイワード・フィールドで第9日が行われた。女子5000メートル決勝では、田中希実(豊田自動織機)が15分19秒35の12位。日本人初の個人3種目に挑戦した大会を終え、10日間で異例の5レースを走り抜いた。しかし、明確な結果を得られず、レース直後に大粒の涙。多種目出場に否定的な見方もある中、誰にも譲れない挑戦心があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
オレゴン世界陸上
オレゴン世界陸上が23日(日本時間24日)、米オレゴン州ユージンのヘイワード・フィールドで第9日が行われた。女子5000メートル決勝では、田中希実(豊田自動織機)が15分19秒35の12位。日本人初の個人3種目に挑戦した大会を終え、10日間で異例の5レースを走り抜いた。しかし、明確な結果を得られず、レース直後に大粒の涙。多種目出場に否定的な見方もある中、誰にも譲れない挑戦心があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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なぜ、涙が止まらないのか。自分の心情をつかめない。レース後の取材エリア。田中は鼻をすすりながら現れた。半透明に変わっていくマスク。言葉に詰まることなく、気丈に想いを吐き出した。
「昨日から何の涙かわからない涙がずっと出てきて、自分でも答えはわからない。今までの世界陸上、五輪では収穫を得られた。経験だけじゃなくて、タイムか順位のどちらかは絶対についてきた。けど、今回の世界陸上は目に見えてわかるタイム、順位が最後までついてこないまま終わるんじゃないかという恐怖があった。国内だと多種目をやることで強い気持ちや負けん気が出るけど、今回は怖いという気持ちが勝ってしまった」
前夜から泣いていた。これまで不調が理由で「結果が出せなかったらどうしよう」と不安になり、レース前日に涙が出ることを経験。しかし、今回は明確な理由がない。「決して調子が悪いわけじゃないのに」。自分の力が出しきれるのか。そんな不安に胸が締めつけられた。
誰も見たことがない景色を見るために、日本人初の個人3種目に立ち向かった。2度目の出場で800メートル、1500メートル、5000メートルに挑戦。東京五輪8位入賞の1500メートルは世界の猛者にもマークされ、細かな接触を何度も受けた。日本人初の準決勝に進み、組7着で敗退。5000メートル予選はフィニッシュの瞬間、前のめりに倒れ込んだ。
出し尽くし、運ばれた医務室。チームには翌日の800メートル予選の回避を進められた。首を横に振った。結局、日本人3人目の出場で予選敗退。「3種目をやってよかったと思える終わり方を」。自らを苦行に追い込み続けたが、そんな苦しみは人前で出さない。この日の5000メートル決勝。メンバー紹介でカクンと膝を折り、にこやかにカメラへポーズを取った。
スローペースに変化が加わった中盤に脱落。巻き返すことができないまま、今大会最終レースを終えた。フィニッシュ直後に倒れ込み、お尻をついて深呼吸。東京五輪の自己ベストに20秒も遅れた。しばらく立ち上がれなかった。気づけば大粒の涙が止まらなくなった。
1500メートルと5000メートルは日本選手権優勝で切符を獲得。800メートルは他国に辞退者が出たため、世界ランクによって権利が巡ってきた。「不安を忘れるくらい過密スケジュールでチャレンジする」。少ない種目で間隔を空けるよりも、詰めた方が性に合うと判断した。