W杯“つま先弾”と鈴木隆行の生き様 「勘違いしない」男が愚直に追った微かなチャンス
鹿島時代に目撃した磐田FW中山雅史の姿勢に感銘
ゴールが決まると雄叫びを上げながらベンチに向かっていく。そこに笑顔はない。むしろ戦っている、そのままの表情で輪の中に飛び込んだ。
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「嬉しいとか、そういう喜びの感情じゃないですよ。よしっ、なんとか同点にしたぞ、くらいの気持ちだったとは思います」
ラッキーでもなんでもない。
あきらめることなく詰めたから、ゴールに結実した。決して挫けなかった鈴木隆行の人生が詰まっていた。
「自分がずっと続けてきたことでもありました。相手が何かミスするんじゃないかと思って、パスが通らなそうな場面でも走ってきましたから。一度でもあきらめていたら、ベルギー戦の時もやっていない。相手に前に入られたから、と途中で止まっていたかもしれない」
鈴木には忘れられないシーンがある。
鹿島アントラーズ時代の1997年12月のJリーグ・チャンピオンシップ第2戦。ジュビロ磐田のエース、中山雅史は相手GKにプレッシャーをかけてボールを奪い取り、そのままゴールを挙げた。スタンドでこの光景を眺めていた鈴木の心に、深く刻まれるものがあった。
「中山さんって何があっても毎回、GKにチャレンジに行くんですよ。絶対獲れないよ、と周りが思っていても。アントラーズの(佐藤)洋平さんから奪ってゴールした時に、この人、やっぱり凄いなって思いましたよ。こういう姿勢こそが大事なんだなって、あらためて感じたんです。
自分の場合、GKにチャレンジして引っ掛かったことなんて一度もない。だけど、ずっと続けた。人生はつながっていると思っています。一度でもあきらめたら成功しない。いや、成功しないかもしれないけど、続けていないと成功する権利を捨ててしまうことになる。GKへのチャレンジだろうが、通らないパス(へのアプローチ)だろうが、やり続けてきたことがベルギー戦のゴールにつながったのだと思いました」
ヒーローになりたい。
それが小さい頃、サッカーばかりやってきた鈴木少年の夢。努力すればそのチャンスは生まれる。チャンスを活かせるかどうかは、自分が積み上げてきたもの次第。ヒーローになった。信念が実証された瞬間でもあった。