村田諒太、歴史的死闘で見せた涙の裏側 金メダルの重圧、帝拳会長の一言が解放させた
3年半前に「あのボクシングが最後は嫌だ」と再起を決断、いま何を思うのか
1試合で何億円も動くのが当たり前のミドル級。世界戦を一度組むだけでも困難を極める。どうしても「勝って当たり前」と見られる相手との試合が続き、重圧がのしかかった。今回は初めて真の世界No.1と対戦。直前に背中を押した本田会長は「2日前の会見からいつもよりナーバスでした。でも、控室では冷静。大したもんだなと。100%の力を発揮した」と奮闘を労い、最大限の賛辞を送った。
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「一般の評価が低すぎるんです。不格好で井上尚弥みたいなものはない。でも、精神力、体の強さは超一流。精神力が一番の特徴です。今回は相手と技術の差がありました。ガードが世界一だからあそこまで持ったと思います。イベントを組んでも結果が悪いと意味がない。あいつに感謝です。終わってもお客さんが一人も帰らないのは珍しい。素晴らしい男ですよ。最高の姿を見せてくれた」
総額20億円を超える超大型興行が日本で実現した。触れ込みに違わぬ、大勢のファンを感動させた死闘。試合直後、本田会長の携帯には「負けたけど感動しました」と海外のボクシング関係者からイベント成功を祝福する連絡が相次いだという。
2度目の王座陥落を喫した村田。1度目の2018年10月、ラスベガスでロブ・ブラント(米国)に敗れた後、心は限りなく引退に傾いた。1200発超のパンチを浴び、不甲斐ない姿を晒した判定負け。「あのボクシングが最後は嫌だ。自分に永遠に嘘をつくことはできない」。まだやり切っていない。この想いが現役続行を決めた理由の一つだった。
今回、どうしても聞きたかったことがある。現役続行会見から1222日。自分自身に納得することを求めてボクシングに打ち込んできたはず。王座奪還、初防衛、王座統一戦の3試合を戦った。これだけの死闘を演じ、リングを降りるまでの過程に何を思うのか。こちらの目を真っすぐに見つめ、答えてくれた。
「よくやったとか、全て出し切ったとかって、実際に試合からもうちょっと時間が経ってからじゃないと言えることはないですね。今の時点で自分を客観的に捉えることはできないです。でも、試合が終わってお客さんが帰らずにいてくださった。拍手してくださったその事実に対して、自分のことを評価してあげてもいいかなと思います」
いつもの冷静な言葉選び。正直な胸の内だろう。時が経ち、どんな感情が湧き上がるのか。下手な詮索はすることなく、その答えを待ちたい。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)