「走るの嫌い」なのにマラソン挑戦 34歳新谷仁美、残りの競技人生を懸けて闘う理由
「THE ANSWER」で年間2ケタ以上の競技を一人で取材する記者の連載「Catch The Moment」。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、アスリートの魅力や競技の熱をコラム形式でお届けしている。今回は6日の東京マラソンに出場した新谷仁美(積水化学)。13年ぶりのフルマラソンは2時間21分17秒の7位だった。大会前にはいつも通り悲壮感を漂わせた一方、レース後に見せたのは豪快な笑顔。望んでいた結果ではなかったが、ポジティブになれた理由があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
13年ぶり挑戦、新谷仁美が東京五輪後に決めた覚悟「そんな人生を送りたくない」
「THE ANSWER」で年間2ケタ以上の競技を一人で取材する記者の連載「Catch The Moment」。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、アスリートの魅力や競技の熱をコラム形式でお届けしている。今回は6日の東京マラソンに出場した新谷仁美(積水化学)。13年ぶりのフルマラソンは2時間21分17秒の7位だった。大会前にはいつも通り悲壮感を漂わせた一方、レース後に見せたのは豪快な笑顔。望んでいた結果ではなかったが、ポジティブになれた理由があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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「このマラソンに懸けている」。レース2日前。会見場にいた新谷は、すでに涙目だった。
2007年東京マラソンで初マラソン初優勝。09年名古屋国際女子を自己ベスト2時間30分58秒で走って以来、今回は13年ぶり4度目の42.195キロだった。「マラソン練習は、ほぼほぼ初めての経験」。1万メートル、ハーフマラソンで日本記録を叩き出してきたが、フルマラソンに挑戦したこの日までの3か月を「過酷」と表現せずにはいられなかった。
「マラソンに対しての拒否反応は未だにある。ハーフまでの練習とは全く違う。華がある競技だけあって、本当に過酷な練習だと身をもって感じた。疲労で全ての欲がなくなってしまって、練習後はソファーで廃人になることしかできなかった」
もともと、マラソン向きな性格ではないと自負している。「せっかちで神経質だから、30分が限界。距離が長くなれば長くなるほど、私はすごく抵抗感があった」。ドラマだって長時間は見ていられない。1時間以上走るなんてもってのほかだった。
なぜ、血を吐くような思いまでして走るのか。事前会見で取材に訪れた高橋尚子さんに問われた。「新谷さんにとって東京マラソンに挑戦する意味とは」。新谷は「う~んと、そうですねぇ……」と淀みながら、マイクに声を乗せた。
「やはりどうしても東京五輪の結果を今も引きずっている自分がいる。今後生きていく上であの結果だけに左右されて生きていくのは嫌。そんな人生を送りたくない。吹っ切れるには自分を納得させるそれ以上の結果が必要。私にとって最もきつい種目はマラソンです。過去の自分と決別させたくて今回挑戦することに決めました」
東京五輪1万メートルは32分23秒87の21位。自身の日本記録より2分以上も遅く、インタビューエリアで号泣した。新谷の言う「過去の自分」とは東京五輪だけではない。人生全体を見据えた選択だった。
「陸上嫌い、スポーツ嫌い、走るのも嫌いという私にとって、スポーツは仕事以外何の感情もないものになってしまっている。嫌いのままでもいいんですけど、嫌いなものであっても、自分の中では『生きていく術としてやってこれた仕事』として心に残しておきたい」