宇野昌磨ら生んだ「フィギュア王国」の今 流出する才能、“愛知復権”への試行錯誤
愛知の歴史を引き継いでほしい
雌伏の時を迎えている愛知だが、長年にわたって先人たちが積み上げてきた“遺産”が失われるわけではない。その大きさを、久野さんは愛知を離れた選手から気付かされたという。
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「1月の名古屋フィギュアスケートフェスティバルの時に戻ってきた(吉田)陽菜ちゃんが、『離れて初めて、愛知の県大会の素晴らしさが分かった。表彰式も氷上だし、キス&クライもちゃんと作られている。初級の頃からキス&クライに座るのが楽しみだった』と話しているのを聞きました」
他の地方大会は、日本ガイシアリーナのような大きな会場で開催されることがあまりない。朝に公式練習を行って、夕方から試合という流れ、試合後のミックスゾーン対応、「大きな大会でも自然にできるように、小さい頃から学んでほしい」とこだわってきた。その思いが選手にしっかりと伝わっていたことを実感でき、「素直に嬉しかった」と誇らしげに笑う。
浅田真央に憧れて競技を始めた河辺愛菜も、小さい頃から氷上の表彰台に上がっていた1人だ。小・中学生時代に所属していた邦和SCでは、鈴木明子、本郷理華が五輪や世界大会に臨む姿を見てきた。「愛知を離れても、そのつながりや歴史、伝統を引き継いでいってくれると期待しています」と語った久野さんは、北京五輪に出場する選手の中でも、やはり子供の頃から見守ってきた選手への愛情が自然とあふれた。
「(河辺)愛菜ちゃんは小さい頃からジャンプ力、プラス優雅さ、表現力を持っていた選手でした。愛知にはいないタイプの選手だったので、移籍した時は残念でしたが、木下アカデミーでジャンプと表現力をどんどん磨いて五輪を掴み取ったので、彼女にとっては良かったですね。怖いものはないので、自分の演技を全部出せれば、前回の坂本(花織)さんみたいにいけるのかな」と柔和な表情でエールを送る。
そして北京五輪で団体、シングルと2つのメダルを獲得し、日本フィギュア界最多となる通算3度の五輪表彰台に立った宇野昌磨についても、期待を口にしていた。
「愛知はフィギュア王国と言われていますが、まだ五輪の金メダルは取っていません。私的には、愛知に金メダルをもたらしてくれるのは昌磨くんしかいないと思っています。本人も当然メダルを狙っていると思うし、今季はいろいろな意味で自分が満足できる演技をすることに入り込んでいる印象がありますね」
愛知で生まれ育ち、リンクで泣きじゃくりながら周りが止めるまで滑ることをやめなかった“練習の鬼”――。その努力がいつか結実することを、久野さんはこれからも祈り続ける。
(山田 智子 / Tomoko Yamada)