走るたびに日本記録が注目されるランナー 田中希実が明かす「記録」と戦うメンタル術
卒業論文で忙しい12月、いい意味の“逃げ道”とは
しかし、田中自身も「折り合いをつけるのは下手で」と苦笑いする。「ずっと前年と比べてしまう。(2021年は)前年を超えられたと思える練習をなかなか詰めていなかった」。東京五輪前は毎週のようにレースに出場し、異例の調整法を取った。春のシーズンインから「また去年よりダメだ」の繰り返し。その過程で東京五輪は無我夢中になり、チャレンジ精神を持って楽しんだことで結果がついてきた。
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「自分の経験としては、『さらに上の自分に期待する』という気持ちを常に持っていれば、ずっと同じぐらいのタイムで停滞していても、ふとしたタイミングでまたポンと上がることが多いです。だから、タイムにこだわりすぎない方が壁を越えられると思います」
同志社大スポーツ健康科学部に通う4年生。昨年末は他の学生と同じように、卒業論文の提出期限が迫っていた。思い切って練習できず「モヤモヤしていた」とコンディションは完璧ではなく、もちろんタイムも出ない。忙しい時、いい意味で“逃げ道”をつくるという。
「全てを言い訳にしてはいけないんですけど、逃げられるところをつくる。『自分はこれだけ他の人と違う部分でも頑張っているから』と思えています。ただサボってダメだったわけではなく、『今の自分が出せる精一杯はこれだ』と納得して走れるようになった。その時の全力をしっかり出せているという意識を持てればいいと思います。私も最近になってやっと開き直ってきた。あまり深く考えない、開き直りが大事なのかなと思います」
選手を見守る指導者も然り。自分を追い込み過ぎず、かといって手は抜かず。杓子定規ではなく、いい塩梅を見つけなければならない。
(最終回「田中希実の文章力と読書論」は30日掲載予定)
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)