陸上・田中希実が持つ「強いランナー」の定義 今、明かす感動を呼んだ五輪決勝の真実
レース後の絶叫、一礼に込めた想いとは「強制や“形だけ”になるのは嫌」
他国の選手と健闘を称え合い、トラックから出る時だった。振り返り、深々と一礼。顔を上げると、思い切り何かを叫んだ。画面越しでは音声が届かない。でも、口は明らかに「ありがとうございましたーっ!」と動いていた。
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ハツラツと、思いの丈を力いっぱいに表現した姿。ここで涙腺が崩壊した人も多かったはず。本命種目の5000メートルは予選敗退に終わり、1500メートルで3本を走った五輪。締めくくったあの一礼には、どんな感情が込められていたのか。
「まずはオリンピックをしっかり開催してくださったことに対してです。いろいろな支えがあってこんな結果を出せる舞台が用意された。『それがあったからこそ、こういう走りができました』と伝えたかったです。2020年にも1500メートルで日本記録をつくることができた競技場で、何回も走る機会があった場所。競技場、テレビで見てくださっている方、大会関係者の方へ『ありがとう』と感謝を込めました」
実はどのレースでもやっている。きっかけは兵庫・西脇工高時代。鉢巻きを取って一礼するのがチームのルールだった。「大事なことだから続けた方がいい」と親の勧めもあり、田中は卒業後も習慣にしている。ただし、決して受動的なものではない。
「自分も強制されるのは嫌だし、体育会系の延長で何も考えずに言われたからやるような“形だけ”になるのも嫌。本当に心からやりたいって思った時は、オリンピックみたいに自然と大声でしっかりできるんです。逆に納得のいかないレースは声が小さい。頭を下げるけど声は出さない、みたいな時もありますね。たまに忘れてしまうこともあったり(笑)。あそこまで大声でやるのは稀かなと思います」
最後の最後まで本心をさらけ出して行動した。だから、見る者の心が動いた。