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ラグビー日本代表、善戦の裏に見えた格差 世界ランク3位・豪州戦データが示す課題

新ルールの導入に伴い「ハイパント」を多用

 キックオフからわずか20秒の出来事だった。自陣22メートルラインでのラックからボールを持ち出したSH流大(サントリー)が、迷わず選んだのはハイパントだった。相手を敵陣に押し戻すロングキックではなく、高く蹴り上げたボールを競り合うキックだ。

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 その後も流をはじめ、FBセミシ・マシレワ(近鉄)、途中出場のSO田村優(キヤノン)がハイボールを蹴り続けた。2016年に就任したジョセフHCが積極的に導入したのが、キックから相手にプレッシャーをかけてミスや反則で攻撃権を奪う戦い方だが、この日のパントは敵陣へ相手を押し戻すような従来のものとは異なっていた。ボールの落下点は、敵陣深くではなくセンターライン前後。概ね両チームの10メートルラインの間を狙ったものだった。

 いわゆるミッドフィールドで相手がボールを手にすれば、明らかに日本陣地に侵入しやすい状況になる。だが、日本代表はこのようなパントを終盤まで蹴り続けた。明らかにチームが意図して選んだキックだった。9月29日から始まった宮崎、大分での合宿の大半を非公開で行ったため、どれだけ練習で取り組んできたかは分からないが、試合後の10月25日にブリーフィングを行った藤井雄一郎ナショナルチームディレクターが、この選択肢を説明している。

「新ルールで、(日本が)長いキックを蹴って、自陣の22メートルライン内に蹴り返された場合は、敵ボールになってしまう。その観点でハイボールを使っていた」

 今年8月から全世界で導入されたルール変更の目玉の一つが、「50:22」(フィフティー・トゥエンティツー)と呼ばれるものだ。このルールは、選手が自陣から蹴ったキックが、敵22メートルラインよりゴール側で間接的に(バウンドして)タッチラインを割った場合に適用される。従来なら蹴られた側のボールで行われていたラインアウトが、蹴った側ボールのラインアウトに変更されたのだ。日本代表は、導入後初めての試合となったオーストラリア戦で新ルール対策を講じて、自陣ゴール前での相手ラインアウトを極力回避するためにハイパントを使ってきたのだ。この判断には、オーストラリア代表のトライパターンも大きく影響している。このチームがラインアウトを起点にトライを奪うのが得意なのは、30-63と完敗した17年の日本戦でも証明されているのだ。

 50:22対策に加えて、藤井ディレクターは「オーストラリアは後方に強いランナーもいたので、あまりロングキックで相手にボールを持たせて攻められるよりも、しっかりコンテストしたかった。ボールインプレーの時間を伸ばしたかったことも理由」とも指摘している。オーストラリア代表のWTB、FB勢のカウンターアタックへの警戒と、ロングキックを蹴り込んだ場合よりも、自分たちがボールを獲得できる可能性が高まることを期待してのハイパントだった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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