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新たな挑戦が新リーグにもたらすもの
現在は母国ニュージーランドに帰国中のロビー・ディーンズ監督も、このような衆人環視の練習県境については「全く問題ない」と語っているという。情報戦も重視される最先端のラグビーだが、相手が分析に力を入れるラインアウトやキックオフに関しては、室内練習場や熊谷ラグビー場を含むスポーツ文化公園内にある複数のグラウンドなどを使って隠すことも可能なはずだ。
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視点をリーグ全体に広げてみると、開幕へ向けて協会・リーグの取材を続ける中で、参入各チームの足並みが揃うのかという不安が浮上する。新リーグの規約、新たなチーム運営形態、事業性、ホームスタジアムを含むホストタウン制などの達成度の格差が、リーグの地盤の脆さに繋がらないのだろうか。積極的な変化に挑んでいるチームがある一方で、企業体質も含めて大きな変革には保守的なチームもある。このような問題点について、飯島GMは過去の自チームの取り組みを引き合いに出す。
「8年ほど前になるかな。田中史朗(SH、現NECグリーンロケッツ東葛)と堀江翔太(HO)をスーパーラグビー(SR)に行かせました。あのときも、社内でも賛否はありました。でも、結果として、その後SRに挑戦する選手が増えて、サンウルブズが生まれ、いまはクロスボーダー大会をどうするかという状態になっています。私たちもSRのレッズ(オーストラリア)との提携を結ぶようになった。他のスポーツの事例を見ても世界に出て行かなきゃいけないということで、モチベーション、実力を持った選手を出したことによって、未来が変わったと思うんです」
すこし強引でも、イノベーションを起こす力のあるチームが先行して新しい挑戦を始めれば、他のチームも追随していくというのが、少なくてもスポーツの世界で起こりえるパターンだというのが飯島GMの考え方だ。新リーグでも、このような変化、進化が参入チームの中に広がっていくことを期待している。
「例えばNECやヤマハ(静岡ブルーレヴズ)は、かなり変わろうとしているのは明らかです。我々もここ(熊谷)で練習試合もすることになると、対戦相手の選手もいろいろなものに触れるわけですよ。高校選抜大会などで来るラグビー関係者もいる。この環境を見た人たちが、チームや地域に戻って、様々な情報を広めてくれるはずです。いい例えじゃないが、ぱっと燃えた火が飛び火すると思うんですよ、各チーム、指導者に。そこから日本全土のラグビーがこうあるべきだ、こうしなきゃダメだということになればいい。その変化の炎に燃え尽くされてしまうチームも出てくるかも知れない。でも、その火をエネルギーにして新しい内燃機関で動き出すチームも出てくると思うんです」
飯島GMの考えをまとめると、従来型の企業スポーツではチーム、リーグの持続可能な運営は保証されないという思いがベースにある。そこには当事者として目の当たりにした三洋電機ラグビー部の末期が大きく影響している。企業スポーツがどう変化していくべきかという問いの先に、プロ化という1つの結論に行き着いている。そして、ワイルドナイツがプロ化を実践する場が新天地の熊谷であり、そこで自治体や地域を巻き込み、自分たちも新しいコミュニティーに飛び込む挑戦が始まろうとしている。新リーグキックオフのホイッスルと同時に、ラグビー版の社会実験が、この“北関東のラグビータウン”で始まることになる。
では、監督経験者でもある飯島GMは、新リーグでも最強時代を築こうとするチームの、現状をどう見ているのだろうか。ワイルドナイツのチームとしての実力を、医師を目指して昨季で引退した福岡堅樹を引き合いに出しながら語ってくれた。