お手本は旭山動物園 プロ化したパナソニックはファン獲得のため「全部見せちゃう」
新天地・熊谷でプロ化を推進する埼玉パナソニックワイルドナイツ。前身の三洋電機時代からの苦境も、栄光も知り尽くす飯島均ゼネラルマネジャー(GM)が語るチーム、リーグ、そして日本ラグビーの未来。後編は、チームが目指すものに更に踏み込み、チームの強さの源泉にも及ぶ。(文=吉田宏)
吉田宏記者のコラム、パナソニックの飯島GMインタビュー後編
新天地・熊谷でプロ化を推進する埼玉パナソニックワイルドナイツ。前身の三洋電機時代からの苦境も、栄光も知り尽くす飯島均ゼネラルマネジャー(GM)が語るチーム、リーグ、そして日本ラグビーの未来。後編は、チームが目指すものに更に踏み込み、チームの強さの源泉にも及ぶ。(文=吉田宏)
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プロ化へ、大きく舵を切る飯島GMだが、新リーグ元年のターゲットは明快だ。
「TLの頃から一緒で、まず日本一。リーグワンで優勝したいということですよね。最後のTLで優勝したことで、やはり終わりと最初に優勝できるというのは単なる優勝とまた違った節目になる」
TL最後の王者と新リーグ初代王座を手に入れることができる唯一のチームである限り、このような野望は当たり前のことだ。同GMの眼差しは、さらにチームが新リーグで目指すものに踏み込んでいく。
「2年ほど前に、チームの中で、新しいリーグを念頭に置いて“4つのS”が具体的な目的だと話をしました。4つのSとはスカウト、勝利、集客、収入です。良い選手、スタッフ、人材を集めること、つまりスカウトがチーム力の源泉です。そのことによってチームが勝利して魅力的な組織になることで、また人が集まり、そこから収入を生んで、スカウトに資金を回すというサイクルを、新しいリーグへ向けて作っていこうということです。コロナ感染という障害はあったけれど、本質的なところは変わらないと思うんです。要するに、試合で勝つということだけじゃなく、地域の象徴だったり、社会課題に対応していくような社交の場であったり、地域・社会貢献だったりね」
勝つことが大きな目標になるのと同時に、勝利がもたらす利益を回すことで、様々な課題を克服し、人材を取り込み、育成する。飯島GMの話を聞く中で判るのは、1つの“何か”を実現することだけに留まらず、いままで繋がりのなかった人たちを巻き込み、副次的に生まれるものも取り込みながら組織を進化、成長させようという視点が常にあることだ。このような構造を作る場となるのが、まさに熊谷の新拠点だった。
真新しい練習グラウンドで印象的なのは、ホテルが隣接し、クラブハウスにもカフェが設けられるなどオープン性の高さだ。
「私たちの新しい施設の中で特徴的なのは、スタジアムのすぐ横にあること。これは私たちには都合いいんですけど、練習グラウンドがホテルのような一般の人から見られる所にあるというのは、監督経験者の私からすると『全部見せちゃうの?』という懸念もありますよね」
誰もが入れる公共スペースの目の前で選手が練習をするという環境は、ファンにとっては歓迎するべきものだが、その一方で強化の場という意味では、あまり例のないロケーションでもある。しかし、そこに飯島GMならではの思惑が仕組まれている。このような開かれた環境での活動を敢えて選んだのには、ラグビーならではの試合数の少なさの中で、プロへと進化していくチームが、どうファンと向き合い、ファンを獲得していくかという挑戦が反映されている。あの人気動物園もお手本にしているという。
「ラグビーの1つの課題が試合数です。プロ野球やサッカー、相撲など、日本のメジャーなプロスポーツに比べると圧倒的に試合数が少ない。シーズン8試合で集客、収入を考えるのは容易じゃない。だから、試合以外にもここに集まってもらえるような場にしていくことを考えていく必要があるのです。そこで私たちが事例とするのが旭山動物園です。2、30年前は経営が全然ダメだった動物園が、行動展示という新しい視点で成功を収めています。私たちもトップスポーツの行動展示を皆に見ていただくということです。客観的な根拠はないですけど、私の現場にいた感覚では、人に見てもらうということで選手は成長する。皆さんに見ていただいて、育てていただくということにも挑んでいきたい」