トップリーグとはどう違う? 明らかになったラグビー新リーグ「リーグワン」の全容
求められるリーグ、協会のリーダーシップ
開幕まで半年とカウントダウンが加速する中で、参入チームには、強化と地域を巻き込んだ普及活動、ホストスタジアムの選定などが直近の課題になる。中期的には、おそらく3シーズン終了時にリーグ側から提示される、さらにプロ化、事業化に踏み込んだ財務等の条件をどうクリアしていくかという挑戦も求められるはずだ。
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リーグ自体にも課題は山積している。顕著なのは、新リーグの規約、概要などの策定が、開幕へ向けて加速できないことだ。もちろん、新リーグという白いキャンバスに細部に渡り絵を描いていくのは膨大な時間が必要なのは明らかだ。しかし、リーグ名称の発表は1か月遅れだったが、そもそも6月に発表出来たとしても、開幕まで7か月でのお披露目は早いとは言えない。ファン、関係者へ、1年前に示すべきことが、今行われている印象だ。会見では「TLは大事なアイデンティティー。これを、最後まで発揮していただきたい思いがあり、TLが終わった後に新しいリーグのことをと考えていた」という説明があった。TLや代表活動中に新リーグ事案の発表を控えたいという配慮は正当な判断だが、むしろリーグのクライマックスや代表活動より前倒しで発表するべきだった。
大会日程や事業計画などの確定は9月になるという後手後手の対応は、ラグビー協会、リーグ側が主導権を持って物事を進めることが出来ない現実を示している。
日本のラグビーは、チームを保有する企業名を見ても明らかなように、伝統的に国内有数の大企業が支えてきた。従来の企業スポーツからプロ化へと移行していこうとする新リーグでも、現状では、その大半のチームが親会社の100%出資であることは変わりない。一時は、大きくプロ化に舵を切った青写真が描かれた新リーグ構想が、段階的にプロへ移行していく構想に軌道修正されたのも、参入企業からの理解を得られなかったからだ。そこには、Jリーグ、Bリーグなどがリーグ側主導で運営、変革がスピード感を持って行われてきたのとは対照的な姿が浮かび上がる。
このような状況下で、リーグ、協会側が、いかにイニシアチブを持って、開幕へ向けて準備を進め、そして開幕後の修正に着手していくのだろうか。
W杯日本大会で、代表チームがベスト8という結果を残し、ラグビーの注目度も飛躍的に高まったことで、日本ラグビー協会の中では、プロ化への勢いが加速したのは間違いない。企業からの資金投下で、事業性にメスを入れることなく続いてきた、いわゆる企業スポーツという形態の将来的な限界と、日本代表が2019年以上の結果、そして日本協会が中長期的な目標に掲げるワールドカップ優勝という夢を実現するために、強化をより高いレベルで行う必要性を考えると、プロ化が大きなカギを握ると結論づけられたからだ。
そのために、来年1月という急ぎ足でのスタートラインに立たされたのが、リーグワンが置かれた現実だ。すでに最終コーナーを回り、ラストスパートに入る段階だが、開幕というゴールの前には、まだ乗り越えなくてはならないハードルが並んでいる。
ここまでに指摘してきた様々な課題に加えて、今回発表された事案の中では透明性を考えさせるものもあった。公正さを保つため、谷口真由美委員長以外のメンバーを非公開で設けられた新リーグの審査委員会が、協会、リーグ側に提出した参入チームのディビジョン分けのための評価(採点)を、協会側が再計算するなど、ファン、外部者には理解が難しい事態が起きている。そもそも、どのようなチーム評価でディビジョン分けが行われたかも非公開としているのだ。ここには、企業の財務関係など、公開が難しい領域があるのは理解できるが、一部の“黒塗り”を認めながらでも、出せるものは極力出す――という姿勢がほしかった。
今回の会見では、新リーグのヴァリュー(価値)として「みんなのためのFOR ALL」と謳われている。この言葉の価値を忘れてはいけないのは、ファンではなくリーグ側に他ならない。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)