アフリカの貧困地で陸上教室 日本すら知らない子供たちへ、30歳五輪スプリンターの貢献
失業率22.5%、絶対君主制の国で見た陸上教室の光景とは
南アフリカから車で7時間。18年4月にスワジランドから国名が変更されたエスワティニは、世界でも数少ない絶対君主制がしかれている。日本の外務省ホームページによると、面積は四国より少し小さい1万7000平方キロメートル、人口は約113万人。18年の失業率は22.5%で「近年旱魃(かんばつ)による食糧危機が断続的に発生しており、エイズの影響による生産者の減少が状況を悪化させている」と説明されている。
日本を代表するスプリンターは別世界に降り立った。30人を超える参加者のうち、半分以上が日本すら知らない。準備運動も、クラウンチングスタートの構えもぎこちなかった。4日間の滞在でかけっこ、リレー、エアロビクスなど運動会のように実施。「日本の子どもたちと反応が全く同じでした」。ハイライトは飯塚が一緒に走った時だった。
200メートルで2大会連続五輪に出場し、100メートルも10秒台で駆け抜けるトップ選手。軽く力を入れただけで異次元のスピードを見せつけた。「速い!」「勝負しよう!」「もう一回! もう一回!」。運動する環境も、言葉も、文化も、肌の色も違うけど、そんなことは関係ない。子どもたちの目の輝きは、万国共通だった。
「スポーツの力」について人に聞いたり、メディアを通して知ったりすることは多い。でも、地肌で体感することは、ひと味違う意味を持つ。まさに百聞は一見に如かず。「海外で陸上教室をやりたい」という想いが強くなった。
「自分が走ることで笑顔になってくれる。少しでも平和な影響を与えられたのかなと思います。貧しい国ですが、家に帰った時に『今日、日本から足の速い人が来たよ!』ってお母さんに喋って、ちょっとでも明るい話題になってくれたら凄く嬉しいです。
海外で貧困地に行きたい。そこで元気になってもらいたいというだけです。平和活動というと大きなことかもしれないけど、それくらいになってほしい。勉強は凄くやるけど運動をしない国もあって、日本の体育はニーズがあるみたいです。『うわー、凄かったぁ』って、1%でも貢献できたらと思います」
「今」これらの活動をすることにこだわりがある。国内外で走って見せた経験から「現役じゃないとできないことがほとんど」と言い切った。
「競走したり、走りを見せたりすることは引退したらできないんですよね。体をキープしても、やっぱり全盛期より圧倒的に落ちてしまう。陸上教室やイベントで一番盛り上がるのは僕が走る時。子どもたちのコメントも速かったことに対するものがほとんどなので、これは現役じゃないとできないなって。あとは、アスリートとしての価値もガクンと下がってしまいます。今まさに前線で戦っている選手が来るのと、10年前にやっていた人では違う。
もちろん、元選手でも僕らからすれば凄い人なので価値はあるんですよ。でも、子どもたちは今の人じゃないとわからない。だから、現役選手が来るのが大事。その後にテレビで知っている人が大会に出ていたら盛り上がりますし、僕らも気持ちを背負いながらプレーできるのは幸せなことです」