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環境は変えられない― 離島で生まれ育った岩政大樹がプロサッカー選手になれた理由

岩政氏は離島出身ゆえ、山や海を眺めながら何時間もサッカーのことを考えながら過ごしていた【写真:(C) Yasuhiro TAKABA】
岩政氏は離島出身ゆえ、山や海を眺めながら何時間もサッカーのことを考えながら過ごしていた【写真:(C) Yasuhiro TAKABA】

得られる情報がないから、自分で考えるしかなかった

 ちょうどサッカーにのめりこみ始めた頃にドーハの悲劇が起きた。小学6年生のときにはJリーグが開幕し、当然のように影響を受けた。「カズ、かっこいいな。井原(正巳)さんみたいな選手になりたいな」。テレビに映るJリーガーが輝いて見えた。それでも「Jリーガーになろうとは思わなかった」と口にする。

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 周東FCは県大会で6連覇するような強いチームだった。しかし、岩政氏は中心メンバーではなく、しかも「夢見る少年でもなかった」。

「都会の人には分からない感覚かもしれないですけど、夢って言われても現実味がなさすぎるんです。たとえば東京って言われても、どんなところか分からない。もう宇宙みたいなもので(笑)、全然手応えがない。人って、目に見えるものでいろいろなことが形作られていくと思うんですけど、目の前にあったのは山と海の大自然。仕事って言っても、漁師、商店、町役場、教師……くらいですからね。夢と言われても……という感じでした。だから周東FCに、キャプテンでチームの中心にいた選手がいたんですけど、そういう人がJリーガーになるのかな、くらいにしか思っていなかった。自分がJリーガーになりたいなんて、現実味がなさすぎて考えられなかった」

 確かに前例や指針がなければ、夢や目標を持つことは難しい。岩政氏も「ちょっとでも周りが『Jリーガーになれるかもよ』とか言ってくれていたら、本気になって目指していたのかもしれない」と吐露した。

 では、Jリーガーを目指していたわけではなかった岩政氏が、家族に送り迎えをしてもらってまでサッカーに打ち込んだ理由は何だったのか。それは、「試合に負けたくない」という究極の負けず嫌いだったから。普通の子供ならば、自身のサッカースキルを磨くことを考え、それが向上しなければ諦めてしまうことが多い。しかし、岩政少年は違った。ボール扱い、テクニック、スピードといったサッカーの才能が自分にないことを認め、そのうえで「じゃあ、どうしようか?」と早々に意識を切り替えた。

「どうやって勝とうかをずっと考えていましたね。島のチームなので、選手も揃っていないし、弱いのは分かっている。今でこそ、“デザイン”という言葉を使いますが、当時から『この試合をどうデザインすればいいんだろう?』というのは考えていました。25分ハーフの前後半50分で、どうやって勝ち切って試合を終わらせるのか。チームメートへの声掛けのトーンを試合のなかでアップダウンさせてコントロールしたり、相手チームに対しても、今どんな言葉を発したら動揺して緩ませることができるのかを考えたり。そういったことを当たり前に考えてプレーしていました」

 サッカーを始めたばかりの小学生が、大人顔負けの思考力でプレーしていたことは驚きだが、自身の頭で考えるようになったのは、離島ゆえのことだった。

「島は本当に情報がなくて(苦笑)。本屋さんもないし、当時はまだインターネットも普及していなかったし、山口県はなぜかテレビのチャンネル数も2つぐらいしかなくて(笑)。だから得られる情報がなかった。ないから、得ようとは思っていなかったんでしょうね。だから自分で考えるしかなかった」

 どうやって試合に勝つんだろう? そんな素朴で壮大な疑問を入り口にして、目の前に広がる山や海を眺めながら岩政少年は何時間もサッカーのことを考えて過ごした。生まれ育った環境を変えることは難しい。それでも、離島で過ごした時間と経験がプロサッカー選手・岩政大樹を形作ったように、考え方ひとつで、道を切り拓くことはできるのかもしれない。

■岩政大樹(いわまさ・だいき)

 1982年1月30日、山口県生まれ。山口県立岩国高校を卒業後、一般入試で東京学芸大学に入学。大学卒業後に鹿島アントラーズに加入した。プロ1年目からセンターバックとして出場を重ね、シーズン後半にはスタメンに定着。在籍した10年間で、リーグ優勝(3回)、Jリーグカップ優勝(2回)、天皇杯優勝(2回)、ゼロックススーパーカップ優勝(2回)など“常勝軍団”の一員として活躍した。その後、タイリーグのBECテロ・サーサナFC、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て、2018年に現役を引退。現在は上武大学サッカー部監督として指導者の道を歩み始めている。

(THE ANSWER編集部)

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