今季のラグビー日本代表戦中止 “失われた1年”が2023年W杯にどう影響するのか
ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)、日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事が14日、ウェブでの会見を行い、今季は全ての代表戦を開催しないことを正式に発表した。
次回大会へ向けた強化に及ぼす影響をベテラン記者が考察
ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)、日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事が14日、ウェブでの会見を行い、今季は全ての代表戦を開催しないことを正式に発表した。当初は参入予定だった欧州強豪国らとの対抗戦「オータム・ネイションズカップ2020(ANC)」の辞退が8月に報じられていたが、選手の準備不足を主な理由に、代替となるテストマッチなどの開催も断念。昨秋のワールドカップ(W杯)日本大会で史上初のベスト8進出という快挙を遂げ、次回2023年大会で4強以上を目標に掲げる“ジェイミー・ジャパン”の強化の行方はどうなるのか。コロナ禍の中で1年の遅れが生じた代表強化のこれから、そして3年後の日本代表の可能性を考える。
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昨年の秋には楕円球のバウンド1つにさえ湧き返った日本だが、1年後の今はボールが転がることすら見ることはできない。日本代表の今シーズンの活動がすべて中止となることが決まり、ウェブ会見でジョセフHCも無念の思いを滲ませた。
「今年試合ができないのは非常に残念です。選手の気持ちが第一だと思いますが、彼らはこういう状況の中でコンディションを整えようと、皆さんの知らないところでハードに努力をしてきたし、いつでも合宿に入れるような準備をしてきた。もう一つはファンの気持ちです。昨年のW杯があのような結果で終わり、その勢いや、ラグビーの進化の道筋が、今年の6月(の代表戦)へ向けて継続して進んでいくのを楽しみにしていた方も多かったと思います」
協会中枢では、このコロナ禍の中での代表戦について多くの可能性が検討されてきた。5月には対戦が決まっていた6、7月のウェールズ、イングランド両代表戦の中止が決定。11月のスコットランド、アイルランド代表戦も見送りを余儀なくされた。相次ぐ代表戦中止の中でも、強化と同時に、昨秋のW杯で沸き起こった空前の盛り上がりを継続させるためには、どうしても代表戦を開催したいという思いはあった。しかし、W杯での躍進を評価されたANCへの参戦に加えて、日本国内での代表戦開催、そしてコロナ感染が比較的穏やかな南半球への遠征と、様々なプランが話し合われてきたが、すべてを諦めるという結論に至った。
岩渕専務理事は会見で、この苦渋の決断についての、さらに踏み込んだ説明をしている。
「ジョセフHCと毎週のように話し合いました。このようなコロナ禍の状況なので、代表チームがW杯でしたような万全には万全を期した準備というのは非常に難しい状況ですが、テストマッチを戦うにあたって本当に必要な準備というのを絶対しなくてはいけない。その中で、やはり想定していた状況を創り出すことはできない、選手がトップの国々と戦うにあたり十分な準備をしたうえでプレーをしてもらう必要があるということから、協会としてはこの秋の代表活動については中止という結論を出しました」
9月に入り、国内ではようやく練習試合も再開し始めたが、選手はトップリーグ(TL)が中断された2月末以降、真剣勝負の実戦から遠ざかっている。感染状況も飛躍的な収束が望めず、日本と海外の出入国制限など様々な要因がある中で、代表戦中止の最も大きな判断理由となったのはチームの強化が十分に出来なかったこと、つまり“準備不足”だった。
いまやW杯8強に食い込み、世界中から注目されている日本代表が、その8強入りを果たしてから初めて挑む代表戦で期待に見合う成績を残せなければ、昨年までに築き上げた評価を落としかねない。これは、ただチームの評判が下がるだけではない。3年後に迫る次回W杯へ向けた強化を踏まえると、希望するような強豪国との強化試合が十分に組めなくなる怖れに直面することになる。日本ラグビー協会は、1年テストマッチが出来ないというデメリット以上に、日本代表が十分な準備を出来ないまま期待された結果を残せないことを、より深刻なリスクと判断して代表戦の断念に踏み切ったのだ。