「『強い』だけじゃ片付けられない」 中野友加里が感じるアスリート羽生結弦の凄み
羽生の強さを最も感じた演技は「平昌五輪のSP」、その理由は…
アスリートには、2つのパターンがいる。
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「有言実行」と「不言実行」。
中野さんが話した通り、羽生は前者だ。「私はかなりマイナス思考なタイプ。『私、できるかな……』みたいに、いつも思っていました」と笑うが、実際に選手として戦ってきたから、勝負の世界で「有言実行」を貫く凄さを理解している。「自分でプレッシャーをかけ、そのプレッシャーに打ち勝っていく。それを楽しんでいるようにすら感じるから見ていて面白いです」と言った。
そんな羽生の強さを最も感じた演技を一つ、挙げてもらった。答えは「平昌五輪のショートプログラム(SP)」。
大会3か月前、NHK杯の練習中に右足首を負傷。出場すら危ぶまれた。しかし、ぶっつけで大舞台のリンクに立った23歳は、66年ぶりとなる五輪連覇を達成。歴史的快挙を呼び込んだのは「バラード第1番」を演じたSPだった。当時、フジテレビのスポーツ担当のディレクターとして、会社で演技を見守っていた中野さん。「魂の2分40秒」は、画面越しであっても、感じるものがあった。
痛めていたはずの右足で踏ん張り、3本のジャンプを完璧に着氷。3回転アクセルではジャッジ全員が出来栄え点(GOE)満点をつけた。自己最高に迫る111.68点で首位発進。江陵アイスアリーナを己の世界に惹き込み、フリーで完成させる伝説の序章とした。
「2大会連続の五輪王者を目指し、プレッシャーがかかる中で、まさに有言実行。『必ず獲る』と言って、しっかり獲ったのは王者ならでは。2大会連続の優勝は並大抵じゃない。特に彼の場合、直前に怪我をしました。普通は怪我をすると、その分、休まないといけない。休むとなると筋力も体力も落ちる怖さがある。年齢とともに体力を含め、すべてを戻すのに相当な時間がかかります。
しかし、しっかりと五輪に照準を合わせて、それを本番で発揮した。精神的な部分で強い選手なんだと、特にSPで感じました。会社で仕事の手を止めて、演技を見守っていたんです。シーンとして、すごく静か。会社にいるのに、まるで会場にいるような雰囲気になってしまった。テレビ越しでもそれだけ人を惹き込ませ、雰囲気を作り出したのは彼の存在感ならではと思います」
現役時代は大会で接する機会が多かった中野さん。初めて会ったのは羽生がジュニア時代の13歳の時だった。「フィギュアスケートを離れると、普通の男の子。可愛らしさもあります」と素顔を明かした。
一方で「凄く真面目だし、勉強もします。進化を続けながら、フィギュアにまつわる勉強もしっかりとしている。そういう部分で手を抜かない。小さい頃から何事も熱心です」という。
「リンク外でも彼の姿勢は一緒でしたし、そこで学んだことが氷上に生きています。例えば、私は勉強のために舞台を鑑賞したり、映画、音楽に触れたり、芸術系の要素から吸収することが多い。選曲の作業では、踊りたい得意なジャンルがあるけど、彼は様々なジャンルの音楽を選んでいる。それは私生活で勉強していないと表現できないもの。陰の努力の証明でもあると思います」