ラグビー日本代表も箱根駅伝出場校も活用 広がるスポーツのGPSデータで何が分かるのか
パフォーマンスを可視化し、より具体的なフィードバックを
実際の活用例を紹介しよう。福島県にある学法石川高校サッカー部は、2019年にKnowsを導入。選手一人ひとりが走行距離やスプリントなどの数値を見て、自らの課題を明確に意識するようになり、チームは翌年初めて全国大会への切符をつかんだ。
また福岡県にある飯塚高校サッカー部は、練習や試合の走行距離やスプリントの回数のみならず、高強度のスプリントの割合や心拍数の変化までを細かくチェックするなど、Knowsを積極活用している。同校について本田氏は語る。
本田「中辻喜敬監督が課題としていたのが、選手とのコミュニケーションでした。明確な理由なしに指示をしても、選手に届かない。そこでGPSデバイスを導入し、パフォーマンスを数値で見せながら、選手に伝えるようにしたとのこと。
実は監督からすれば、具体的な数値を見なくてもパフォーマンスはたいてい想像通りなのだそうです。でも具体的なデータを示すことで選手たちの意識が変わり、監督との意思疎通が円滑になったといいます。つまり、GPSデバイスがコミュニケーションツールになっているわけです」
客観的なデータをもとに選手へフィードバックが可能になるGPSデバイスだが、活用には注意が必要だ。本田氏は、導入を検討している指導者に向け「走行距離やスプリントの数といったデータを、ネガティブな形で活用しないでほしい」と語る。
本田「例えば、走行距離が多い選手と少ない選手を比べて、少ない選手を『お前は何をさぼっているんだ』と叱る、アラ探しのような活用方法は、GPSデバイスの本来の使い方ではないと思います。
高校サッカーでも強豪チームであるほど、サッカーがうまいのは大前提。レギュラーになれるかの決め手は『走れるかどうか』といったシンプルなことになってくることが多い。GPSデバイスでデータを取ることが『試合に出たければもっと走れ』という空気を作ってしまうのは危険です。高校生でもまだ成長中の選手は多く、身長も体重もばらつきが大きいため、過度の負荷が怪我につながる可能性もあるのです」
大事なのは、データを継続的に取ること。すると徐々に、選手一人ひとりの疲労の蓄積具合や、身体的特性、適性がある練習メニューなどが見えてくる。その結果「この選手はこの練習をこれ以上させるとオーバーワークになる」「逆にこの選手はもっとトレーニングできる」ということを、個別で判断できるようになる。
本田「ぜひ指導者の方々には、GPSデバイスから得たデータを選手同士の比較ではなく、一人ひとりの成長を判断する指標として使ってほしいのです。そして特に中学・高校のチームの場合、試合ごとのスプリント回数の比較など、シンプルな分析から始めていくことをおすすめします。
そして最初から多くのデータを扱おうとせず、スモールスタートし、慣れるにつれて徐々に分析項目を増やす。その上で、データをトレーニングにどう落とし込むかを監督、コーチで考え、コンディションをマネジメントする。これが理想だと思います」