「寝る間も惜しんで頑張る」は美徳ではない 睡眠不足が選手の技能習得に及ぼす悪影響
後半の浅い眠りで「技能記憶が向上していく」
翌日になると、なんとなくコツがつかめていて乗れるようになる。そういうケースが一般的なのだという。矢野がさらに解説を加える。
「後半の浅い眠りで必要な記憶が定着していきますが、技能記憶のほうは向上していくんです。だから深い睡眠ができていて成長ホルモンが分泌されているからいいと、3時間しか睡眠を取らず朝練習や夜遅くまでトレーニングを続けていると、フォーメーションプレーをまったく覚えられなかったり、視野が狭くなり正しい判断ができなかったりするなどの弊害が出てくる可能性があります」
睡眠は時間ごとで、異なる役割を担っているそうである。
「前半の深い眠りの時は、成長ホルモンを分泌するだけではなく、嫌な記憶を消していきます。従って深い睡眠が取れていないと『明日も失敗したらどうしよう』と思い悩み、それで再び眠りも浅くなり、次の日も過緊張で失敗してトラウマになっていく。そんな悪循環にはまっていく危険性があります。もちろん、気持ちの切り替えが上手くできるかどうかは性格にも関わってきますが、深い眠りを確保して脳から嫌な記憶を切り離していく方法を教えてあげれば、選手たちの積極志向を引き出してあげられる可能性もあります」
睡眠時間が少ない国民性は、スポーツ界にも多大な影響を及ぼしている。寝る間や休む間を削って頑張ることが、仕事の非効率化や重篤な病気に繋がることはすでに常識化されつつある。だがスポーツ界では、依然として「流した汗の量が結果と比例する」信奉が脈々と引き継がれている。