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「寝る間も惜しんで頑張る」は美徳ではない 睡眠不足が選手の技能習得に及ぼす悪影響

「睡眠」は人間が生きていく上で、切っても切れない関係にある。しっかりと体を休めて熟睡し、気持ちの良い目覚めを迎えて心身ともにリフレッシュするためにはどうすればいいのか。そんな“理想の睡眠”を追求しているのが、アスリートスリープコーチとして活動する矢野達人氏だ。「スポーツと睡眠」をテーマにした連載の第1回は、アスリートにとって睡眠時間を削ることの弊害について説く。(取材・文=加部 究)

アスリートにとって睡眠時間を削ることの弊害とは
アスリートにとって睡眠時間を削ることの弊害とは

連載「スポーツと睡眠」第1回、スリープコーチが語る技能習得と睡眠の関係性

「睡眠」は人間が生きていく上で、切っても切れない関係にある。しっかりと体を休めて熟睡し、気持ちの良い目覚めを迎えて心身ともにリフレッシュするためにはどうすればいいのか。そんな“理想の睡眠”を追求しているのが、アスリートスリープコーチとして活動する矢野達人氏だ。「スポーツと睡眠」をテーマにした連載の第1回は、アスリートにとって睡眠時間を削ることの弊害について説く。(取材・文=加部 究)

 ◇ ◇ ◇

 睡眠が健康を維持するのに重要なカギになることは、ほとんどの人たちが漠然と知っている。しかし、とりわけ日本社会で睡眠は、相対的に軽視されてきた。例えば「寝る間も惜しんで頑張る」ことは、美徳として高い評価を与えられ続けてきた。サラリーマンはもちろん、こうした発想は長時間にわたる練習量に重きを置くスポーツの世界にも根強く残っている。アスリートスリープコーチとして活動している矢野達人(上級睡眠健康指導士)にとっては嘆かわしい現実である。

「日本は先進国の中で平均睡眠時間が最も少ない。また睡眠不足を要因とする経済損失も先進国の中ではワーストです。睡眠不足から作業能率が低下したり交通事故が起こったりすることによる損失が非常に多い国なんです」

 例えば長時間練習にこだわる指導者は、口癖のように言ってきたはずだ。

「やると決めたら、できるまでやり遂げろ!」

 だが、これは睡眠科学の見地からも誤りだという。

「幼児が自転車の練習を始めて、午前中に全然乗れなかったのに夕方になったら乗れるようになるということは、ほとんどありません。

 深い睡眠に入る前半では、成長ホルモンが分泌されます。また、後半の浅い眠りの間には、自転車に乗ったり字を書いたりする運動記憶や技能記憶が向上することが分かっています」

 だから「今日はこのくらいにして明日また頑張ろう」のほうが、技能習得の効率が高い。

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矢野達人

アスリートスリープコーチ(上級睡眠健康指導士) 
総合医療グループで病院や老人ホーム、スポーツジム等の運営に携わると、大阪で睡眠に特化したサロン「快眠ほぐしサロンすいみん」や「スリープクリニック」を運営。一般社団法人オルソスリープアカデミーの代表理事兼代表講師を務め、「アスリートスリープコーチ講座」や睡眠医療から生まれた究極の回復療法「メディカルスリープヘッド講座」を展開する。世界的スリープコーチであるニック・リトルヘイルズ氏と国内独占契約を結んでおり、今春から兵庫県相生学院高校サッカー部のスリープコーチに就任した。

加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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