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三浦龍司の「感覚と感性を理解」 五輪選手を輩出、順天堂大監督が重視する指導法

順天堂大学陸上部を指導する長門俊介監督【写真:編集部】
順天堂大学陸上部を指導する長門俊介監督【写真:編集部】

三浦は「3000メートル障害以外には苦手意識を持っていた時期もあった」

 三浦は元々スピードはあったが、ラストの切り替えができる選手ではなかった。しかし、入学当初、長門監督のアドバイスによって現在の日本で負けなしのラストスパートの切り替えができるようになった。

「塩尻はなかなかラストスパートが切り替わらず、苦労していました。いろいろ試行錯誤して、切り替えるように取り組ませていました。その時に得たポイントがあったのですが、そのポイントを三浦に伝えたら、一発でギアが変わりました。そのポイントは今でも指摘することはあります。金栗(金栗記念選抜陸上中距離大会)の1500メートルの前も少し意識が変わっていた感じがしたので、指摘しました。それだけでキレが変わります。三浦は運動能力が高く、すぐに体現できる。そういった部分も天才だと思います」

 現在、トラックレースでは結果を出し続けている三浦だが、レースによっては弱気な発言をすることもあった。

「三浦だけじゃないですけど、どういう言葉をかけるのかは意識していますし、距離感も大事にしています。状況を見て、ポイント、ポイントで声をかけるようにしています。三浦は常にレースでは強い姿を見せていますし、3000メートル障害に対しては、『パリ五輪でメダル』というような強気な発言をしますが、実はレースによっては、レース前にネガティブな時もあります」

 大学1年の時、福岡クロカンに出走する際、三浦はシニアではなく、ジュニアで出走しようと思っていた。クロカンには苦手意識があり、前日の記者会見でも「順位は20番ぐらい」と言っていた。だが、長門監督は「絶対に勝てる」と背中を押した。

「実績がないものについては意外と臆病なところもあります。この時も自信がないみたいなことを言っていたので、『絶対に勝てる』と背中を押しました。結果だけを求めることも辛い部分もあるので、試合を楽しめばいいんじゃないかとも話しました。三浦はどんな種目でも結果を残しますけど、常に注目される存在になり、負荷がかかることが多くなってきているので、レースによってはあまり多くを求めないようにしています」

 繊細な気遣いと絶妙な距離感の上に、三浦の指導は成り立っている。

【第2回】三浦龍司に「世界を見せてもらった」 東京五輪で決意新た、順大監督が描くパリへの道

【第3回】箱根駅伝2位は「自信になった」 順大監督のチーム管理術、大切にする選手との距離感

(佐藤 俊 / Shun Sato)

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長門 俊介

順天堂大学 陸上競技部 駅伝監督 
1984年生まれ、長崎県出身。諫早高校から順天堂大学に進学し、箱根駅伝は4年連続で9区を走った。卒業後はJR東日本に進み、2011年に順天堂大学陸上競技部のコーチ、16年に駅伝監督に就任した。3000メートル障害で塩尻和也、三浦龍司と2人のオリンピアンを輩出、22年の箱根駅伝では総合2位となりチームを15年ぶりのトップ3に導いた。

佐藤 俊

1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。

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