為末大、五輪延期で考えるアスリートのピーキング「心にも体力がある、これを忘れずに」
10代のピーキングは、厳密でなくてもいい
では、10代の成長期の選手を指導するときに気を付けないといけないことは――。
ピーキングはあまり厳密に行う必要はありません。トップアスリートのように完成が近づいた世界では、“勝てるかどうか”はピーキングが大きな比重を占めます。しかし10代の場合、まだトレーニングの影響の方が大きいです。
「もっとうまくなりたい」というモチベーションがあれば、トレーニングを積めば積むほど、フィジカルも技術も一般的に向上します。高校生でもピーキングに失敗して負けることもあるのでやらなければならないのですが、それほど厳密にやらなくてもいい、というのが私の意見です。
それよりも身体への理解を深めることが重要です。そのときに欠かせないのが科学。パフォーマンスが発揮される仕組みのうち、8割は科学的な根拠、ロジック、セオリー、普遍的で誰にでも通用するものです。あとの2割が競技別、個人別の差です。この2割を大きく捉えていると、自己流になり過ぎて失敗してしまう。例えば、“かつ丼を食べれば勝てる”みたいな根拠のないことを実行してしまうようになるわけです。科学的根拠を学び、きちんと理解した上でアスリートたちに指導を行うことでパフォーマンスの質がかなり向上すると思いますよ。
※「ピーキング」 試合などの本番に最大の能力を発揮できるように、選手のコンディションをコントロールすること。疲労、回復、適応のサイクルに合わせて練習内容や量を調整しながら、本番に選手の能力が最高のピークになることを目指す技術のこと。
(記事提供TORCH、第2回に続く)
https://torch-sports.jp/
■為末 大 / 為末大学学長
1978年生まれ、広島県出身。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者。現在は人間理解のためのプラットフォーム為末大学(Tamesue Academy)の学長、アジアのアスリートを育成・支援する一般社団法人アスリートソサエティの代表理事を務める。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。
(スパイラルワークス・松葉 紀子 / Noriko Matsuba)