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日本で出会い、トルコで始めたバレエ男子 3年のブランク経て夢見る欧州バレエ団への道【#青春のアザーカット】

学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

186センチの長身を生かした踊りが魅力のイステッキくん【撮影:南しずか】
186センチの長身を生かした踊りが魅力のイステッキくん【撮影:南しずか】

連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

 そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

14頁目 スタジオアーキタンツ イステッキ海来(みらい)くん

コロナ禍中はストレッチや筋力トレーニングでコンディションを保った【撮影:南しずか】
コロナ禍中はストレッチや筋力トレーニングでコンディションを保った【撮影:南しずか】

 2020年、突如として世界中を混乱に陥れた新型コロナウイルス。瞬く間に感染拡大し、非常事態宣言発令中には外出することもままならず。当たり前だと思っていた日常が、実は貴重な時間であることに、多くの人が気付かされることになった。

 学校には行けず、友達にも会えない時間に、これまでの自分、今の自分、そして未来の自分に思いを馳せた人もいただろう。現在、東京・田町にあるスタジオアーキタンツ(STUDIO ARCHITANZ)に通いながら、プロのバレエダンサーを目指すイステッキくんもまた、その一人だった。

 東京・自由学園高等科に入学し、もうすぐ1年が経とうとしていた3月1日。授業は登校から自宅学習に切り替わり、仲間との楽しい時間が詰まった寮も閉まってしまった。

「自由学園では新入生は全員入寮することになっていて、高校3年生の室長に寮での仕事を教えてもらったり、学校に慣れるためのアドバイスをもらったりするんです。入学して不安だった時、支えてくれた先輩は格好良くて憧れの存在。でも、コロナで卒業式が1か月早まり、寮も閉まってしまい、とてもショックだったのを覚えています」

 寮から両親が住む大阪に戻ったものの、「色々なものが自分の周りから離れていった不安を感じました」という。仲間や学校との繋がりが感じにくくなるに連れ、増えてきたのが自分自身と向き合う時間だった。

「自分の人生について考える機会があったんです。『今まで自分は何をやってきたんだろう? バレエも途中で辞めちゃったし』って考えた時、『もう一度本気でバレエに取り組んでみたい』と思う心を自分の中に見つけました」

振付師の母が手掛けた舞台に感動「僕もあの舞台に立ってみたい」

11歳の時に見た舞台に感動し、バレエを始めたという【撮影:南しずか】
11歳の時に見た舞台に感動し、バレエを始めたという【撮影:南しずか】

 トルコ人の父と日本人の母を持つイステッキくんは日本で生まれ、2歳から10歳までトルコで過ごした。バレエを始めたのは9歳の時。きっかけは、冬休みに日本を訪れた時、振付師をする母が手掛けた「青い鳥」という舞台を見たことだった。心奪われたのは、作品を締めくくるラストシーン。青い鳥の羽が舞台にハラハラと舞い降りる様子が「すごく印象的で、僕もあの舞台に立ってみたいと感動しました」と目を輝かせる。

 トルコに戻ると早速バレエを始めた。その後、日本へ引っ越した後も楽しくレッスンを続けたが、成長期の中学生になると変化が訪れた。「1年間に20センチくらい身長が伸びたんです。バレエは爪先を外に向けるポジションが多いので、膝にすごく負担が掛かってしまって……」。成長痛の辛さに耐えられず、中学2年生の頃にバレエから距離を置くことにした。

「その頃を振り返ると、気持ちの面でも幼かったと今は思います。子どもっぽい憧れだけで目標もないまま、努力が必要な現実を端に押しやって、いいとこ取りをしようとしていたというか。実際に成長痛もありましたが、自分の中ではバレエに対して中途半端で気持ち悪い感じがずっとありました」

 好奇心が旺盛で色々なことにチャレンジしてみたいタイプ。バレエを離れた後も、ジャズダンスを習ったり、映像編集や写真に凝ってみたり。ただ、どれも全て“ある程度”まではいくものの、覚悟を持って“究める”道には踏み出せなかった。自分はこれからどういう将来に向かっていくんだろう——。そう考えた時、頭に浮かんだのは過去の自分の姿だった。

「過去の自分を思い浮かべると、自分がやり遂げられなかったことの一つがバレエ。そこに後悔を感じて、再開することにしました」

一念発起で再開したバレエレッスン、目標は「プロとしてバレエ団に入りたい」

スタジオアーキタンツでは海外からの講師から厳しくもハイレベルな指導を受ける【撮影:南しずか】
スタジオアーキタンツでは海外からの講師から厳しくもハイレベルな指導を受ける【撮影:南しずか】

 ジャズダンスを習っていたとはいえ、バレエ自体はおよそ3年のブランクがある。学校での授業が再開するまでは、自宅でストレッチや筋力トレーニングに励み、再び寮に戻ってからは朝食後に体育館へ行き、肋木(ろくぼく)につかまりながらバーレッスン。冬の朝、床から足に伝わる痺れるような寒さは「印象的でした」。放課後になると友達を誘ってランニングをしたりストレッチをしたり。再び通い始めたレッスンも「同い年でバレエをしている人たちとはだいぶ差がついてしまったので、できるだけ早く追いつこうと根性みたいなものが沸いてきました」と目の色を変えて臨んだ。

 2020年4月から今年3月に卒業するまでの約2年間、ほとんど毎日バレエのレッスンを続けてこられたのも「バレエ団に入ることが目標です。望みを高く持つのであれば、プロとしてヨーロッパのバレエ団に入りたいです」という目標があるからだ。

 目標を達成するために、自分は何をするべきか。考えた末に通い始めたのが、スタジオアーキタンツ。海外の第一線で活躍する講師のクラスを受けられることが特徴で、「ここでしっかり海外のノーマルを学びたい。海外レベルに達するには、ここが最良の選択だと思いました」とイステッキくん。クラスで求められるスタンダードが高く、「毎日厳しいレッスンを受けています」と苦笑いするが、その顔に溢れるのはバレエと正面から向き合っている充実感だ。

大切にしたい「演技力」、欧州を代表する二人のプリンシパルに憧れ

バレエではスキルと同時に演技力を大切にしていきたいという【撮影:南しずか】
バレエではスキルと同時に演技力を大切にしていきたいという【撮影:南しずか】

 186センチある長身を生かした大きな演技ができるようになることが目標。指先のシルエットや爪先の向き、首の角度など気を配らなければならない基本はたくさんあるが、イステッキくんが一番大切にしたいのは「演技」だという。

「バレエは総合芸術ですが、ストーリーを伝えるためにも基礎的なスキルはもちろん、演じるキャラクターになりきるくらいの演技力も大事にしていきたいと思っています。自分が舞台を見る時も、それぞれのダンサーがどうやって振り付けを自分のものにして、音楽に合わせて演じているか。そこがバレエの質、その舞台の質になるのかなと思うので、自然と目が行きます」

 好きなバレエダンサーはボリショイ・バレエ団のプリンシパルを務めるセミョーン・チュージンと、デンマーク王立バレエ団のプリンシパルを務めるアンドレアス・カースの二人。「セミョーンはスキルがしっかりしていて、表現力もすごくあるダンサー。アンドレアスは演技にすごくこだわっているダンサーで、特に『ロミオとジュリエット』のロミオ役での演技が大好きです。3時間くらいある映像を、もう何度も何度も見直しています」と声を弾ませる。

 コロナ禍がきっかけとなり、再び歩き始めたバレエを究める道。真剣な眼差しでレッスンに没頭する姿からは、何もかも不完全燃焼で終わらせてしまった過去の自分から卒業しようという強い意志が伝わってくる。

「一日一日を自分の力に変え、将来のために一つも無駄にせず、全てを吸収できる自分でいたいですね。僕はバレエから離れていた時間があるので、本当に無駄はできない。駆け足で進んでいきたいと思います」

 バレエに夢中になって過ごす10代の日々。嬉しいことも辛いことも全部ひっくるめて、かけがえのない大切な宝物になるはずだ。

【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。

■南しずか / Shizuka Minami

1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com

南カメラマンが写真で切り取ったイステッキくんの再挑戦

【撮影協力】スタジオアーキタンツ、Pictures Studio赤坂

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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