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重い貧血、PMS、子宮内膜症… 35歳の引退まで病と向き合った陸上・室伏由佳の競技人生

指導者から「腰痛症は出産すると治るらしい」、正しい情報が皆無だった現役時代

 それでも、大学時代は円盤投げでインカレ4連覇と活躍。2000年のシドニー五輪から女子ハンマー投げが正式種目に採用されると、大学4年生のシーズンオフ(21歳)からハンマー投げにも本格的に取り組み始めた。

本当にしんどかった重い生理痛 婦人科医に相談、服用し始めたピルが私には合った――サッカー・仲田歩夢選手【私とカラダ】

 そして、大学卒業後はミズノに入社し、ミズノトラッククラブに在籍。ハンマー投げを始めてからわずか5年半で、同競技で2004アテネ五輪出場を決めた。

 しかし、順風満帆に見える裏では、慢性的な非特異的腰痛症(原疾患が特定できない腰痛症)の痛みに加え、徐々に月経に伴う辛い症状に苦しんでいった。

「20代中盤になると、PMS(月経前症候群)の症状が強くなりました。これが10代のころとは異なり、尋常ではないほど辛く、不調を感じていた生理前と生理が始まって数日は、仕方なくトレーニング量を半分にしていたこともありました。

 陸上選手はピーキングを狙い4週間のトレーニングサイクルで強弱をつけた練習計画を立てます。ただでさえ練習計画はうまくいかないところ、生理が訪れるタイミングで不調に陥り、本来落とすべきではない追い込み時期に練習量を落とすということになる。

 結果的に練習で十分に能力を高められなかったり、大会で最大のピークを合わせたりすることが難しいケースが多くありました」

 社会人アスリートとして引き続き母校のグランドで練習をしていたときのことだ。腰痛症や婦人科の問題を心配する学部生時代から知る先生たちから、「大丈夫か?」と、よく声をかけられた。

「腰痛や生理痛があり、調子が悪いんです、と話すと、男性の先生たちが『そうか。聞くところによると、腰痛症は出産すると治るらしいぞ』と、いわゆる都市伝説を、一生懸命に話してくださったことを覚えています。

 それを聞きながら『本当かなぁ』と。『腰痛症が起こると毎回、出産しないと治らないのか……』『結婚もしていないのに出産して治すなんてできないよね……』と冗談めいて思っていました。

 怪我のことや健康面を気にかけてくださる男性の教員や指導者は、当時からいましたし、先生たちは知っていることは伝えてあげたい、サポートしたいという想いも持っていた。でも、生理についての教育もなかったですし、生理や腰痛症に関する正確な情報は皆無。だれもが知識のない時代でした。

 良かれと思ってのアドバイスも、こちらが本当に必要とする情報ではありませんでしたし、指導者側も有益な情報がなくてごめんね、という雰囲気でした」

(後編「現役中に子宮内膜症『復帰できても競技は…』 選手として室伏由佳が悩んだ手術の決断」に続く)
            
■室伏 由佳 / Yuka Murohushi

 1977年生まれ。スポーツ健康科学博士。陸上競技女子ハンマー投げの日本記録保持者(2022年10月月現在)。女子円盤投げの元日本記録保持者2004年アテネオリンピック女子ハンマー投げ日本代表。中学から陸上を始め、高校に進学時に円盤投げに転向。ミズノ株式会社に入社し、社会人選手となった1999年よりハンマー投げの大会にも出場し始め、2005年にハンマー投げ、2007年には円盤投げと二つの投擲種目で世界選手権出場を果たした。2012年に競技を引退。現在、順天堂大学スポーツ健康科学部/大学院スポーツ健康科学研究科 准教授を務める。研究領域は、アンチ・ドーピング教育、スポーツ心理学を中心に教育研究をおこなうとともに、スポーツと医学や健康などをテーマに講演や実技指導など幅広く活動している。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)


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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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