月1300km走っても「生理は来た」 金メダルと健康、野口みずきが2つを両立できた理由
野口さんも体重管理で失敗を経験「過食症気味な精神状態に陥ったことがあった」
ランナーに限らず、アスリートにはそれぞれの「ベスト体重」がある。パフォーマンスを最大限発揮するために必要なもの。重すぎたり、痩せすぎたり、今もなおコントロールに悩まされる選手は多い。自己管理できる人もいれば、他者からの管理を必要とする人もいる。
他者による厳しい体重管理とは、一体どんなものがあったのだろうか。「私の先生は『しっかり食べる』という教えだった」という野口さんは、「噂でしか聞いたことがないんですけど」と踏まえた上で他校の例を挙げた。
ある学校は2限目の授業が終わった頃に体重を量らされ、昼食後にもう一回測定。一日に何回も自分の体重と向き合う。「なんで増えているんだと言われることもあるらしいです。でも、その子は『ご飯を食べていたらそりゃ増えるだろ』って。そうやって指摘されるそうです」。実業団でも、海外遠征で現地到着後に体重測定。機内食を取ったことを指摘され、注意を受ける選手もいたという。
「食事はするわけですから、そりゃ増えるだろうと思います。高校時代は練習後の体重がお昼休みよりも減っていなかったら『ちゃんと走れていなかったんじゃないか』と言われていたそうです。それを聞いた時に『凄いなぁ。うちはよかった』と思っていました。そういった指導者は、高校で活躍してくれたらそれでいいという意識だったのかなと。そうでなければそんなことはしない。厳しすぎる体重管理はありましたね」
野口さんが過去に所属したチームには、指導者に提出する練習日誌に嘘の体重を書き込んでしまう選手がいたという。「私は素直に書いていたのであまり言われることはなかったのですが、何年経ってもそういう選手はいます。中には5キロくらい嘘を書いている子がいて(笑)。そりゃ、体を見たらわかりますよね」。プレッシャーや負い目を感じ、ごまかすことに慣れてしまうのだろう。
指導者も正しい体重を把握しなければ、適切な練習メニューを作れない。「ランナーの足はガラスのコップのようなもの。器に合っていなければ、水が溢れてパリンと割れてしまう。体重もそれと同じ」。体重過多を知らないまま練習をさせると「やがて体を壊してしまう。指導者にもちゃんとした情報を出してほしい」と願う。
そんな野口さんも若い頃は失敗を経験した。高2の夏休み。わずかに体重が増えた。「あっ、やばい」。真夏に窓を閉め切り、部屋をサウナ状態にして汗を出そうとした。当時は五輪出場を争うほどの選手ではなかったが、2、3年時は3000メートルでインターハイに出場。数百グラムの変化に過敏になった。
「過食症気味な精神状態に陥ったことがありました。ちょっとでも増えたらダメなんじゃないかと思って」。一人になって追い込まれた。ただ、幸いにも性格的に長続きしなかった。
「しんどいなと思ってやめました。すぐにそう思えてよかったです。私は一瞬だけネガティブな方向になっても、『う~ん、なんか合わないかも』と思えるんですよね。夏の合同合宿でも、体重管理が厳しい他校の選手が旅館のコロッケや天ぷらの衣を外して食べていました。『意識高いなぁ』と思って真似はするんですけど、『衣がついてないと意味ない!』と思って食べてしまいます(笑)。その分動いたらいいか、という考えでした。
社会人1、2年目は少し体重を増やして入ってしまい、体重計の数字は凄く気になりました。サウナスーツを着込んで、エアロバイクで汗だけ出す。本当にダメなことをしていました。水分だけ落としても実質何も変わっていない。せっかく栄養士さんが寮で栄養満点のアスリート食を考えて出してくださっているのに、食べても汗でいろいろなものが失われていく。もったいないことばかり。だから、私も膝の疲労骨折をしたことがあります」