貧血に気づけなかった理由「もともと体力があるせいで…」

　異変や違和感は体からのSOS。なぜ、大橋選手は貧血になり、気づけなかったのでしょうか。

　体内では、赤血球に含まれる「ヘモグロビン」が酸素と結合し、各細胞に酸素を運搬します。ヘモグロビンの濃度が低下すると、運べる酸素が少なくなって酸欠状態となります。「疲れやすい」「練習しているのに持久力が落ちている」といった症状が出るのが貧血です。

【注目】「自由に、快適に」カラダを動かす感動を味わって　「女性の気持ち」×「ワコールのテクノロジー」から生まれた「CW-X」の女性用スポーツショーツはこちら

　大橋選手だけでなく、女性アスリートに多いのが「鉄欠乏性貧血」。生理の際に血液とともに鉄が流出し、鉄不足でヘモグロビンの濃度が低下します。若い選手など人によっては「太りたくない」という意識から食生活が偏り、栄養バランスが乱れることで鉄不足を促進させてしまいます。大橋選手は甲殻類のアレルギーを持っていて、生まれた時から卵も食べられませんでした。

「今は落ち着いてきましたが、食が限られることが多くて、貧血になりやすい原因があったのかなと思います。あとは大学で一気に増えた練習量に対して、食事が足りなかった。お医者さんに言われたのは、もともと体力があるせいで貧血の状態でも人並みに動けてしまうということ。スポーツ選手の貧血は気づきにくいそうです」

　原因判明後は食事改善。寮で出されるものに加え、実家の母が冷凍で送ってくれるヒジキやアサリ、シジミを食べるようにしました。「ヘモグロビンの値も凄く低かったんですけど、鉄を貯蔵するために必要な『フェリチン』が本当に底をつきそうな値でした」。鉄分やビタミン補給のため、最初の1か月は毎食後に薬を服用。2か月ほどで「貧血になる前と同じ状態」とハードな練習にも耐えられるようになりました。

　体調不良の原因がわかったことで、心も前向きになれました。16年4月の日本選手権に照準を定めるなど、自ら立てた目標をクリアしていくことで着実に成長していきます。課題を解決していく力はもともと高い。大学4年となった17年4月の日本選手権は200＆400メートルの個人メドレーで2冠。400メートルは日本記録を叩き出しました。

　夏の世界選手権は200メートルでも日本記録を更新して銀メダル。一躍、日本代表の中心選手となり、19年世界選手権も400メートルで銅メダルを手にし、東京五輪では200メートル、400メートルともに金メダルを獲得しました。

　貧血を克服した経験が、選手として、人として自分を大きくさせました。栄養について知識を得るだけでなく、周囲の選手にもアドバイス。「練習を頑張れなかったり、試合で思うような結果が残せなかったりした時、周りから『やる気が……』と言われがち。それも要因かもしれないですけど、『もうちょっと体の中のことも考えるべき』と話をすることもありますね」。本当に技術やメンタルの問題なのか、新たな視点を持つ必要性を説くといいます。