どうすれば女子スポーツ人口は増えるか WEリーグ初代チェア「部活にシーズン制導入を」
女性アスリートがロールモデルになるために必要な「人間力」
井本「プロスポーツ選手のロールモデルは、社会からの注目度が高いだけでなく、リーグの集客数にもかかわってくると考えます。ところが、今の日本でロールモデルといわれる女性スポーツ選手は、かなり容姿まで重視される印象があり、私はそこに問題意識を持っているんですね。ですから、すでにラピーノ選手などの素晴らしいロールモデルがいる女子サッカー界には、日本でもジェンダーニュートラルな、新しいロールモデルの誕生を期待しています。岡島さんは、女子サッカー選手のロールモデルについて、何かお考えはありますか?」
岡島「まずは子どもたちの身近なロールモデルになってほしいと考えます。そこで、常に選手たちに伝えているのは『人間力』の大切さです。橋本聖子さん(東京五輪・パラリンピック組織委員会会長)がずっと言われている言葉に、『人間力なくして競技力なし』というものがあります。アスリートは競技力が高いだけでなく、考えを言葉にして発信する力をつけることがとても大切だと思っています。ですから、選手たちには、子どもたちやファンに向けて、自分の考えを言葉できちんと言えるようになってほしいと伝えていて、メディアトレーニングも行っています。
現在、WEリーグは11クラブなので、毎節必ず、試合のないチームが1クラブあるんですね。そこで、試合がない日を『WE ACTION DAY』とし、ジェンダーやSDGsをテーマに掲げたイベントやサッカースクールなど、地域の学校やコミュニティで理念推進活動を実施してもらっています。このように子どもたちと触れ合う機会を作り、選手自身の言葉、行動を実際に聞いてもらう、見てもらうことで、選手たちは子どもたちの身近なロールモデルとなることを期待しています。
そして子どもたちは、選手と触れ合うことでサッカーという競技に興味を持ったり、WEリーグを観に行こうという気持ちになったりする。この繰り返しが、将来的にはサッカーの普及に繋がると考えています」
井本「とても説得力のあるお話です。Jリーグやプロ野球がそうですが、自分たちが住む都道府県や地域にチームがあり、身近に感じる選手がいることは、その地域が活性化されたり、スポーツ文化が根付く大きな要因ですよね。皆、地元愛はあると思うので、全国区や世界的なチームではなく、自分の近くにあることがすごく大切」
岡島「そうですね。WEリーガーに『子どものとき、誰が憧れだった?』と聞くと自分の通っていた小学校や中学校に来てくれたJリーグの選手の名前を挙げる選手が多くいました。ですから、やはり身近ということは大切だと思います」
井本「女子サッカーは女子チームが学校の部活にないなどの問題から、中学校に上がると、サッカーをやめてしまう選手が多いと聞いています。きっと、これらの活動は今後、子どもたちが長くサッカーを続けるモチベーションや環境作りにも繋がりますよね」
岡島「その通りです。私は今後、女子サッカーに限らず様々な競技関係者と協力し、女子のスポーツ人口を増やしたいと考えています。少子化が進むなか、運動能力のある女子を様々な競技で取り合うのではなく、女子が『スポーツをしたい』と思える環境作りを進め、スポーツ人口を増やしたいんですね。そのための提案としては、一つは中体連にアプローチをして、中学校で女子がサッカーをできるよう指導者を派遣する。
そして実現可能かどうかはわかりませんが、秋はサッカー、冬から春は野球という具合に、いくつかのスポーツができるシーズン制を部活に導入してみてはどうかと考えています。これにより様々なスポーツへの入口が増えますし、中学生の間は将来どの競技に絞るかを考える時間ができます。
それから中学校と地域のクラブの連携。どちらでも練習ができたり、試合に出場する際は学校かクラブかを選手自身が決められたりとフレキシブルな体制を作る、など。中体連も文科省もスポーツ省も含めて、みんなで女子のスポーツ人口を増やしていきましょう、とアプローチしていきたい」