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「男性の体と違うこと受け入れて」 実は女性に多い膝の怪我、サッカー永里亜紗乃の提言

現役時代の永里さんの膝、引退間際は日常生活も痛みが出ていた【写真:本人提供】
現役時代の永里さんの膝、引退間際は日常生活も痛みが出ていた【写真:本人提供】

今も見聞きする女性アスリートの膝の怪我に駆け巡る想い

 トレーニングメニューの作成において、性差が考慮されていないことが多いのも女性アスリートが怪我をする要因。男性中心だったスポーツ界の歴史的背景から、トレーニングの裏付けとなるデータのほとんどは、男性アスリートの被検者から導かれてきた。一方、月経周期を考慮したスポーツにおける女性の体の研究は不足している。

 永里さんも「同じ結果が得られないのに、男性と同じメニューをしているから女性の体の長所を生かせていない」と肌身で感じた。ドイツで13年から3シーズンプレー。体の大きい海外の女子選手は、男子のメニューにも取り組むことができていた。

「海外の女子選手も体のつくりが日本人と違う。日本人特有の体に合ったものをやらないと戦えない、と改めて感じました。海外でリハビリをした時も『これは自分がやって意味があるのかな』と思うくらい、自分に合っていないものもあります」

 強豪国で行われている練習だからといって、全てを日本人に取り入れてしまうことは危険性を含んでいる。研究が進んでいる国では、良いとされるものも多い。ドイツでは怪我をした選手に対し、複数のリハビリメニューが提案されていた。「海外選手は体が大きい分、反動で怪我も多いのですが、それでもすぐに復帰する。自分に合ったものをチョイスできる環境は整っている」と説明した。

 自発的に考え、知識を蓄えながら自分に適切なものを選んでいくことが大切。ただし、怪我をしたことがない選手、中高生年代の選手に自発的な姿勢を求めることは簡単ではない。だからこそ、永里さんは「体の構造から何から女性は複雑だと思うんですよ。まだ今は男性トレーナーの方が多いと思いますが、トレーナーの方から女性の性格などを把握しながら、もう少し誘導してもらうようなことも必要」と願う。

 自分に合ったものを選びたい一方で、日本特有の課題にぶつかる。中高生や実績の乏しい若い選手にとって、言われたメニューはやらなきゃいけない、「私はこう思う」と発言しづらい空気があるのではないか。この問いに対し、永里さんは大きく頷いた。

「これは女子だからというよりも、日本の文化的に同調圧力がまだまだ強い部分があるので、線引きが難しいですよね。みんなで一緒にやらないといけないことも絶対にある。けど、体のことになったら、もう少し自由にできるような風潮になっていかないと、これから先どのスポーツでも他の国に勝っていけないんじゃないかと思います」

 引退した今、後輩たちやバスケットボール、ラグビーなど他の競技の選手が自身と同じ怪我に泣き、苦しむニュースが飛び込んでくることがある。そのたびに「まだまだ自分の体のことを知らないのかな」「自分のプレースタイルの特徴を自分でコントロールできていないのかな」「もう少し膝の使い方をうまくしていれば、ターンできる膝になるのに」なんていう想いが駆け巡る。

 あの頃の自分にも知識があれば、防げていたかもしれない。

「みんなと同じではなく、自分の特徴に対して足りないものを補えれば、もう少し怪我が減るんじゃないかなと。怪我をした時が大事なことに気づけるタイミング。そこでどういうトレーナーに出会うか、どういう情報を得るのか。引退する数年前に聞いたのは、体のバランスを考えること。体のどこを使うとどう動くのか、本当に細かいことをやり始めました。でも、癖ってなかなか直らない。これを早くに知って自分の悪いところを直せていたら……とは思います」

 前もって知識があるだけで、苦しい日々と出会うことがなかったかもしれない。もう数年、自由にピッチを駆け回ることができたかもしれない。自分が出会った人、サッカーに全身全霊を懸けた日々を否定しているのとは全く違う。ただ、人生にタラレバは尽きない。

 引退から2年後の18年4月、29歳で女の子を出産。今は2人目も妊娠中だが、膝の影響は「ずっとあります」と笑う。妊娠中は体重が増え「ずっと膝がギシギシいっちゃうんです」と痛みを感じる一方で、散歩も必要。痛みと付き合いながらの生活だ。

 引退後に受けたMRI検査では「これ、いつも来るおばあちゃんと同じ足だよ」と言われ、“膝年齢80歳”であることが判明。それでも、第二子妊娠前はサッカーもできていた。「軽くだったら蹴られる状態。これで軽くすらできなかったら、趣味がなかった」。何より幸せを感じるのは、2歳の娘と遊んでいる時間だ。

「子どもと走れている時、一緒になってアスレチックに登れている時はよかったなって思います。痛かったらできない。私はスパッと辞められたから、ある程度若いうちに出産もできた。いま思えば、引退するタイミングはよかったなって思いますね」

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