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「生理ってそんなにハードルが高い話?」 陸上・新谷仁美がありのままに語る選手の生理

昨年12月の日本選手権で日本新記録を樹立し、東京五輪代表を内定させた新谷さん【写真:Getty Images】
昨年12月の日本選手権で日本新記録を樹立し、東京五輪代表を内定させた新谷さん【写真:Getty Images】

東京五輪と生理が重なっても自然体「生理を言い訳にしたくない、私は私の体で走る」

 選手によっては、ピルを服用し、痛みの治療をしたり、生理が試合にあたらないよう、時期をコントロールしたりしている。新谷さんも検討はしたが、「自然に任せる」が今の結論だ。

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「生理に関しては横田(真人)コーチを始め、マネージャー、お父さん、お母さんなど、たくさんの人に相談し、自分はピルで調整しなくていい、と決めました。

 今の日本は諸外国と比べ、低用量ピルの種類が非常に少ない。割合でいうなら、海外が20種類あるとすれば3種類しかない、という感覚です。海外の選手はピルでうまく調整できても、少ない種類のなか、自分に合う薬を見つけるのは相当、難しい。

 SNSでも、『ピルを飲んだほうがいい』とたくさん言われました。でもね、そんっっな簡単なことではない。主治医も『ピルを使いたいというのであればお手伝いはするが、新谷さんが考えて決めたのなら貫いたほうがいい』と私の意思を尊重してくださいました」

 低用量ピルを服用することで、副作用が出る人もいる。そのため、一つの薬を3か月間は服用を続け、体に合うか合わないかを見極める必要がある。30代の彼女がトップランナーとして走れる時間は、10代、20代の選手に比べると圧倒的に少ない。今、問題なく走れるのであれば、試す時間さえ惜しいのだろう。

「正直、私はムダなことをしたくない。ムダかムダじゃないかはもちろん、人によって異なりますが、今まで問題なくやってきた私にとっては、1種類ずつ試す、その時間さえもムダです。

 もちろん、今後、別の問題が出てきたら、その都度、相談します。例えば、種類が増えたら試しやすくもなりますし、ピルに頼らなければいけないときがくるかもしれないですから」

 台風がこようがケガをしてようが、どんな状況、状態でも、結果を出さなければいけないのが我々アスリート。結果に対する言い訳は一切できない、と言う。

「私自身、生理を言い訳にしたくないし、そもそも結果の良しあしに生理は無関係です。生理にあたってもあたらなくても、私は私の体で走る、という状態を見せたい。

 東京五輪で生理があたったら? そのときはタンポンをさして走りますよ!」

「メダルを獲らなければ、この世界にいる必要がない」という強い覚悟で新谷さんは走り続ける【写真:松橋晶子】
「メダルを獲らなければ、この世界にいる必要がない」という強い覚悟で新谷さんは走り続ける【写真:松橋晶子】

 無月経の体で出場した2013年8月の世界陸上モスクワ大会。自己ベストで5位入賞を決めた新谷さんだったが、レース直後、涙とともにこう答えた。

「メダルを獲らなければ、この世界にいる必要がない」

 その気持ちは今も変わらない、という。ただ、意味は少し異なるかもしれない。今、彼女は、メダルという結果だけでなく、メダルの持つ力を欲している。

「メダルってわかりやすいじゃないですか。私のタイムを聞いてピンとこなくても、メダルを獲ったと言えば誰もがスゴイ! と言う。だから、メダルを獲ることは大きいんです。

 例えば生理についても、私より高橋尚子さんや野口みずきさんが発信してくださるほうが、すっごく大きな反響があると思います。でも私の強みは現役選手であること。結果を出せば、生理の話ももっとみんなに聞いてもらえるし、大切さが浸透していくと思う。

 私は、陸上とかスポーツをやりたい子たちが、安心してスポーツができる、集中できる環境を作るために、この生理の壁をなくしていきたい」

 大切な体を、他人がコントロールすることはできない。誰もが、自分の体のことは自分で決める権利がある。

 彼女は女性アスリートとして、また一人の女性としての信念を抱き、走り続ける。

【「生理」について語った新谷仁美さんが未来に望む「女性アスリートのニューノーマル」】

「私もコーチが怖い、と思うときがあります。でも、アスリートとして自分の意見、考えを伝えることは必要であり、そこに対しての怖さはありません。納得がいかない、うまくいかないことがあっても、意固地になったり、殻に閉じこもったりせず、自分の思いを言葉にしてしっかりと発言する。もちろん、選手が発言できる環境作りも必要ですが、選手自身も、自分の意思を持ち、発言し、しっかりコミュニケーションをとりながら行動できるようでありたい」

■新谷仁美 / Hitomi Niiya

 1988年2月26日生まれ、岡山県出身。総社東中から興譲館高(ともに岡山)に進学。全国高校女子駅伝には1年から出場。3年連続で1区区間賞を獲り、3年時は全国優勝を果たす。卒業後は実業団で陸上を続け、女子1万メートルで12年ロンドン五輪9位、13年世界陸上5位入賞。同年12月に一度引退を発表したが、18年に復帰した。昨年1月から積水化学に移籍。12月、東京五輪選考会を兼ねた日本選手権1万メートルで渋井陽子の記録を抜き、18年ぶりに日本新記録(30分20秒44)を樹立し、優勝。五輪代表に内定した。ハーフマラソン日本記録保持者(1時間6分38秒)。

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(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」2日目は「女性アスリートとLGBT」、元バレーボール選手の滝沢ななえさんが登場)

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)


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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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