実は「野球の国」だった中米ニカラグア WBC初出場、元甲子園球児が見た小国の野球熱
人生初ヒット、怪我、身長のハンデを打ち破った野球経験を伝える今
ただ、野球人生は楽しいことだけではなかった。高校1年の秋、走塁中の怪我で右肩を軽く脱臼した。痛みはあったが、大会を控えていたため練習を続行。「完全に壊れてしまった」。手術を受け、半年間のリハビリ生活。グラウンドで100人を超える部員がレギュラーを争う一方、部室でただ一人、母に買ってもらった野村克也氏の著書を読みこんだ。
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「失敗に偶然はない」。そんなフレーズが、いつも人のせいにしていた自分を成長させた。
東京とニカラグアを繋ぐZoomによる今回の取材中。いつも励ましてくれた母との記憶が次々と蘇る。
高校時代のある日、洗濯物を干す母が突然泣き出した。「ごめんね。お母さんが小さいから」。幸子さんは身長150センチ。息子の野球を観戦した時、体格を引き合いに厳しく罵られる姿を目にしていた。涙する母に何も言えなかった河合さん。直後、シャワーを浴びながら号泣した。
「それが凄く悔しくて。『やっぱ俺、小さいからダメなのかな』『もう無理かな』と考えて。ただ、母が励ましてくれるので、精神的に少しだけ強くなれたと思います。『もう、絶対に大きいやつに負けない』という想いで頑張っていました」
人生初ヒット、無理をして悪化した怪我、身長のハンデを打ち破って出場した甲子園。喜びも、苦しみも味わった野球人生。日本の高校野球で白球を追った経験を伝えるのが、今だ。
「世界中のどこで野球をやっている子たちにも、怪我はしてほしくないです。それは強く思っています。ニカラグアでもプロ野球選手になれない人の方が多い。その人たちは絶対に他の仕事をします。そうなった時、当たり前かもしれないですが、時間を守れたり、一つひとつの仕事をきっちりできたりする人でいてほしい。練習がしっかりできる子は、仕事も絶対にしっかりやる。一つひとつが将来に繋がると思って教えています」
みんなで走っている時、「違う練習がしたい」と意思を主張する子がいる。「その練習は後でもできるよね。今はみんなでやろうよ」。規律を守るのも日本野球の長所。優しく伝えれば、素直に聞いてくれるという。
「こちらの子は、日本よりも人の成功を喜べる子が多い印象です。自分の成長を考えている子が多いので、いい意味で人を気にしない。あまり嫉妬心がありません。僕の高校時代は同じポジションに10人もいた。本来は誰かが活躍したら喜ぶべきですが、悔しい思いが強かったです。やっぱり、『野球は常に楽しむものだ』って伝えていきたいと思います」
WBCに初出場するニカラグア。目を輝かせる子どもたちから、日本の元甲子園球児に質問が飛ぶ。「日本は強い?」「どんなピッチャーがいるの?」「えっ、屋根のある球場? 凄いね。雨でもできるじゃん」。未来が広がる野球の国。中央アメリカの小国にも確かな野球熱がある。
【世界の野球に望む未来】
「野球って一塁、二塁、三塁、ホームがあって、最終的にホームに戻ってくるスポーツ。『野球ってホームだな』と思っています。例えば、家が気まずくて居心地が悪い時、グラウンドに来ればもう一つの家になる。そういう場所になるのが野球です。『練習したかったら、うちに来てやろうよ』って言ったり。だから、どこでも野球ができる環境があること。野球をしたい時に野球ができる世界であれば、それは凄く素晴らしいことだと思います」(JICA海外協力隊・河合賢人さん)
※「THE ANSWER」ではWBC期間中、取材に協力いただいた皆さんに「世界の野球に望む未来」を聞き、発信しています。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)