胸を打たれたアスリートの行動 トレーナー・中野ジェームズ修一がコロナ禍に願うこと
トレーナーとしても葛藤「一瞬も躊躇しなかった、とはいえません」
私たちフィジカルトレーナーは、選手が最大限にパフォーマンスを発揮するために、トレーニングメニューを組み立て、それを実行してもらうことが仕事の主軸です。そのなかで、筋肉量や筋持久力をアップし、より強い体を作るために、肉体的、精神的に追い込んでいくようなウエイトトレーニングも組み立てます。
しかし、選手が最もキツイと感じるのも、このウエイトトレーニングです。
アスリートたちは自分の競技が好きで、選手を目指し、続けています。ですから、皆、練習は好きです。でもウエイトトレーニングが好きだからサッカー選手になりました、バレーボールの選手になりました、という人は恐らくいません。彼らはどんなにきついトレーニングでも、強くなるためならばやりますが、やらなくて済むのであればやりたくない、というのが本音です。
アスリートたちが行うウエイトトレーニングは、練習でもかかないほどの大量の汗をかき、途中で気を失うこともあるほど、非常に厳しい。目の前の試合、大会、目標を失った選手たちが自身を追い込み続けることは、実は非常に困難なことです。
実際、東京五輪をはじめ、様々な大会が中止になったことで、モチベ―ションが下がり、トレーニングになかなか気持ちが入らず、自分を追い込むことができない選手がいるという現状も耳にします。正直言うと私も、大会があるかどうかもわからないなか、選手たちを限界まで追い込むことに、一瞬も躊躇しなかった、とはいえません。でもここで「もう1セット」をやらせなければ何も成せないため、厳しくトレーニングを課しています。
今回のことで、選手自身、そして彼らを支えるスタッフや家族は、モチベーションを維持する難しさを痛感したと思います。それでも、いつ試合が決まっても力が発揮できるよう、皆、考え得る最高の準備をし続けています。これからはそのことに思いを馳せながら、彼らのプレーを応援し、楽しんでいただけたらと、選手をサポートする一人として強く、願うのです。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)