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ラグビー日本代表に何が足りなかったのか 過去最高レベルのW杯8強、死闘に見た「世界との差」

脳裏に蘇った日本代表コーチの言葉

 この試合のLOアマト・ファカタヴァのトライのように、日本はFLリーチ・マイケルらフィジカルが強く、スピードのある選手をタッチライン際に立たせてトライを狙う戦略も立てたが、コルビのように一瞬のチャンスを一気にトライに結び付けるトライゲッターは準備不足だった。19年大会では松島幸太朗、引退した福岡堅樹が、コルビのようなスピードと決定力を見せたが、今回は4年前ほど対戦相手に脅威にはなっていなかった印象だ。期待の松島も、アルゼンチン戦後に語っていたように、FBからの急な変更で十分に力を出し切れないまま大会を終えた。

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 これまでは勝者の数値が高かったデータが、今大会では逆転現象が起きていることに触れたが、それ以外でも興味深かったのは、準々決勝4試合でのキックとパスの比率というデータだ。キック1回に対して、何回パスをしたのかを示す数値だが、このデータが、そのチームがどんな戦術を多用したかのバロメーターになる。南アフリカはキック1回に対してパスを3回使っているが、フランスは6.5回とパスが多い。ニュージーランドは4.2回パスをしているのに対して、アイルランドは5.8回のパスを使っている。

 この数字を見ながら、6月に行われた浦安での強化合宿で聞いたトニー・ブラウン・アシスタントコーチ(AC)の言葉が記憶に蘇った。

「W杯では、間違いなくキックが重要になる」

 W杯イヤーの本格的な活動が始まった合宿は、チーム(コーチ)がどんなラグビーを目指していくかを知るためにも重要だが、戦術性に富んだチーム作りで手腕を見せる職人肌のコーチは、こう明言していた。もちろん、昨季までもキックによる攻撃を重視してきたジェイミー・ジャパンにとっては、目新しいことではない。だが、その当たり前を、あえて報道陣の囲み取材で語るところに意味がある。日本代表が行けなかった準々決勝で、6月の“ブラウニー”の言葉の重みを噛み締めた。

 では、日本の数値はどうだったのか。アルゼンチン戦でのデータでは、日本がキック1回に対して8.2回パスしているのに対し、アルゼンチンのパスは6.5回と下回る。ベスト8で敗れた4チーム同様に、パスの比率が相対的に高かった日本が敗れているのだ。この数値に関しては、これからの検討材料になるのかもしれない。だが、ブラウニーの言葉通りのキッキングに戦略的な重要性があるとすれば、日本は従来以上にキッキングゲームの精度を高める必要があるだろう。

 アルゼンチン戦での相手のハイボールキャッチの姿勢を見ていると、2021年に来日したオーストラリア代表と重なり合う技術を感じた。両チームともマイケル・チェイカ・ヘッドコーチが指揮したチームだが、捕球する時に上方に飛び上がるのではなく、走り幅跳びのように前方に飛んで、その最高到達点でボールをキャッチするスキルを身に着けている印象だった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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