「また4年後、この場所に」 ラグビーW杯、開幕戦から撮り続けたカメラマン 心に誓った最後の1枚
熱戦が繰り広げられたラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材したカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。最終回は28日(日本時間29日)に行われた決勝、南アフリカ―ニュージーランド戦から。
ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム
熱戦が繰り広げられたラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材したカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。最終回は28日(日本時間29日)に行われた決勝、南アフリカ―ニュージーランド戦から。
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W杯決勝のピッチ、歓喜の輪の中で、小さな体が高々と抱え上げられた。レンズ越しに2人の笑顔が見えた。170センチのチェスリン・コルビと、204センチのエベン・エツベツ。その表情が意味することを思うと、ぐっと胸が熱くなった。その景色は、51日間におよぶラグビーの祭典にふさわしいフィナーレの1枚だった。
後半33分、南アフリカのコルビが反則による10分間の一時的な退場を受けてピッチを去った。残り時間は7分、点差はわずか1点。ニュージーランドとの優勝をかけた一戦は、最後の最後までもつれた。ベンチに退いたコルビは、ピッチを見つめることができず、ただただ顔を覆ってひたすら勝利を祈っていた。
同じく、ベンチで勝利を強く信じ、祈る男がいた。ニュージーランドのサム・ケインは、前半に反則を犯して退場となった。審議を経てカードの色は黄色から赤へ、ピッチに戻ることは許されず、目の前で戦う仲間を見つめることしかできなかった。
この試合、両チームに2枚ずつ、合計4枚のカードが出された。激しさゆえの結果か、決勝という独特の舞台からくる緊張か、8万65人の観客で埋まったスタッド・ド・フランスは異様な世界だった。
結果は紙一重、正直、何が勝敗を分けたのかもわからない。後半33分、1点差で退場となったコルビにとって、あの7分は長く、辛い時間だったはずだ。試合終了の笛は、コルビにとって絶望から歓喜への合図だった。
うれし涙とくやし涙が入り混じるスタッド・ド・フランスの夜空に、W杯のグランドフィナーレを飾る花火が上がった。ピッチを照らすスポットライトの光に、チャンピオンたちが掲げるウェブ・エリス・カップがキラキラと輝いていた。
「また4年後、この場所に」――。心にそう誓いながらシャッターを切った。
■イワモト アキト / Akito Iwamoto
フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表の試合撮影のほか、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。
(イワモト アキト / Akito Iwamoto)