世界陸上100m女王の感情が爆発した芸術性 撮影者が解説「行動と感情のコンビネーションだ」
ブダペスト世界陸上は27日(日本時間28日)、9日間の熱戦に幕を閉じた。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けてきた。
ブダペスト世界陸上連載「陸上界の真珠たち」第21回
ブダペスト世界陸上は27日(日本時間28日)、9日間の熱戦に幕を閉じた。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けてきた。
第21回は、64歳の世界的スポーツ写真家ボブ・マーティン氏が撮影したこだわりの1枚を本人の言葉を基に紹介する。40年以上のキャリアで夏冬19度の五輪を経験し、国際オリンピック委員会(IOC)の公式フォトグラファーも務める同氏。今回は、21日(同22日)に女子100メートル決勝を制したシャカリ・リチャードソン(米国)が、渾身の雄叫びを上げた瞬間から。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平、鉾久 真大)
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アスリートの感情が爆発した瞬間だった。リチャードソンは大会新記録の10秒65(向かい風0.2メートル)で金メダルを獲得。顔をくしゃくしゃにして絶叫した。細かく編まれた黄色や赤の髪は毛先が跳ね上がり、躍動感が表現されている。
感情が滲み出る瞬間はこれまでの努力、苦労の大きさが見える時。マーティン氏は芸術性を解説した。
「この1枚はワイルドだ。髪の質感、髪が跳ね上がっていること、顔に表れている感情。彼女自身が勝利したことにとても驚いている事実がまた素晴らしかった。だから、行動によるその瞬間と、感情による瞬間のコンビネーションだね」
レースは、3連覇を狙ったシェリーアン・フレイザープライス(ジャマイカ)が飛び出したが、中盤以降は内からシェリカ・ジャクソン(ジャマイカ)、外からリチャードソンが迫った。ラスト10メートルは内外離れたジャクソンとリチャードソンの接戦。最後はリチャードソンが競り勝った。
電光掲示板で金メダルを確認し、歓喜を爆発。世界最速女王の称号を噛みしめていた。ジャクソンが10秒72で銀メダル、フレイザープライスが10秒77で銅メダルだった。
英国人のマーティン氏はIOC、ウィンブルドン、マスターズの公式フォトグラファーを務め、2005年に世界最大のフォトコンテスト「ワールド・プレス・フォト」でスポーツ賞を受賞するなど、輝かしいキャリアを積み上げてきた。撮影だけでなく、各世界大会のコンサルタント責任者も担当。技術と経験をもとに撮影位置、設備の助言を送り、写真でスポーツの熱狂を世界に届けてきた。
スポーツ写真撮影の極意の一つとして「アスリートが何を、いつするか予想すること」を挙げる。「選手の特性を知っているから、特別な瞬間を収められる」と意識した結果が、今回の1枚に繋がっていた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)