世界が認めた1枚のスポーツ写真 伝説64歳フォトグラファーが誘う「見る者の思考の創造」【世界陸上】
スポーツ写真家、でもスポーツファンではない「写真のファンなんだ」
写真の面白さを語り始めれば、より饒舌になっていく。「これもよく知られたものだよ」。スペインで収めたシーン。飛び込み選手の奥にバルセロナの街並みや山が連なる絶景だった。まるで空を飛んでいるかのよう。この構図は世界のカメラマンにとって狙い目スポットになった。
「これも私にとってとても重要なもの。他のフォトグラファーもこれと同じような写真を撮るようになったからだ。今でも若い人たちが来て、『あなたのバルセロナの写真を撮りました』と言ってくれるから嬉しいよ」
アスリートに敬意を払い、64歳になってもグラウンドを動き回る。よっぽどスポーツが好きなのだろう。スポーツの魅力について質問した。「あまり良い答えではないが……」と意外な言葉が返ってきた。
「私はスポーツファンというより、フォトグラフィーのファンなんだ。若い時は新聞のフォトグラファーになりたかった。朝刊に自分の写真が載って、友人たちが私の署名入りの写真を見る、それが若い頃の原動力だった。だけど、結局スポーツに特化した仕事をやることになった。だから、スポーツが少しは好きに違いない。でも、フォトグラフィーの世界で働きたかったんだ」
もともと獣医を目指していたが、「頭が悪すぎた。2か月しか続かなかった」と断念。学生時代から撮影が趣味だったため、13歳で写真学校に入ると、フィルムの扱いや印刷など全ての工程にハマった。15歳で撮ったバイクレースの写真が初めて地元紙で採用。50年前の喜びを今でも噛み締めなら仕事をしている。
「真剣になって、集中するようになった。そこからはずっと私の趣味だ。だから、写真は私の情熱だね。働いている時はいつもハッピーだよ。もう結構な歳だが、まだ続けているんだから」
今大会もトラックで起きたドラマ、選手の感情が爆発した瞬間を次々と撮影。どうやって魅力溢れる1枚を捉えるのか。そこには「スポーツから興味をなくすようにしている」というプロの極意があった。
(26日の後編「アスリートの動きを予見する極意」に続く)
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)