世界が認めた1枚のスポーツ写真 伝説64歳フォトグラファーが誘う「見る者の思考の創造」【世界陸上】
過去ベストショットはパラリンピアン「写真に必要な要素が全て入っている」
そんなマーティン氏のベストショットとは。長いキャリアだけに「難しいね。人によって見方が違うから」と記憶をたどる。スマートホンで自身のホームページを開き、見せてくれたのが義足の競泳選手だった。
両脚のないスペイン人パラリンピアンが、スタート台からプールに飛び込んだ瞬間を真上から写したもの。肩まで入水し、プールサイドには義足が丁寧に置かれていた。2005年に世界最大のフォトコンテスト「ワールド・プレス・フォト」でスポーツ賞を受賞した1枚。同氏は少し胸を張り、評価された理由を明かす。
「見た時に思考を創造するものだからだ。優れたパラリンピアンを見ると、人々は(障害のある部分に)目がいってしまう。素晴らしいのは、見た時に気になったものだとしても、これは活気に満ちた素敵な写真だということ。彼(シャビエル・トーレス)は健常のアスリートと同じように競技をしているんだ。優れているのはそれだけではない。
これはとても写実的。(プールの)底のタイルの反射が、彼の周りで割れ、水の中で反射している。これが素敵なんだ。水が青色で、その周りも青色。だから、写真として生き生きとしている。写真に必要な要素が全て入っている。背景も良いし、構図も良い。素晴らしい写実的な要素と、(見た人の)感情的な要素が入っている。これを見たら『ワオ、この男は凄い』と驚くだろう」
しかし、狙い通りだったわけではないとのこと。毎回プラン通りに進まないからこそ、「これは特別な写真の一つなんだ」と強調する。しかも、一度は撮り逃したが、幸運にもチャンスが舞い降りたという。
「私はプールの反対側にいて、彼が義足を外して椅子に立てかけるところを見たんだ。アメージングだと思ってね。でも、天井では安全ケーブルをつけないといけないからすぐには行けない。必死で向かっている途中でレースが始まって、撮り逃したんだ。
でも、ラッキーだったのは、それがフライングだったこと。もう一度スタートした。あの午後、私は撮れたかもしれなかった史上最高の写真を撮り逃したが、同時にラッキーだったからこれを撮ることができたんだ。あの時は必要とすることが全て揃ったんだ」