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野球は300、ラグビーはわずか4… 28年前の“英雄”吉田義人が募らせるW杯後の危機感

アカデミー設立でアスリート育成にトライ

「修士論文のテーマはゴールデンエージだった。子供たちの成長には、骨の成長、筋肉の成長、そして神経系の成長という3つの柱がある。この神経系の成長が一番過敏になるのが9歳から12歳と言われています。ボールを投げる、ボールを蹴る、ジャンプする、体を回転させるといった動作が、神経回路を伝って一番自分の体の中にインプットされるのがこの世代です。この年代に様々な競技を経験することが、アスリートとしての発育にも重要な影響を及ぼすことになるんです。

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 研究を続ける中で感じたのは、実はこういう環境って自分が子供の頃には当たり前に身近にあったものなんです。僕が育った秋田県の男鹿半島では、学校が終わるとみんなで集まって野球をやったり、サッカーをしたり。夏は海で泳いで、冬には山遊びをしていた。毎日のように運動動作をしていたんですね。

 でも、今の子供たちには、こういう環境が十分にはない。東京や横浜のような都市部ではなおさらです。だから、野球でトップを目指すような子供が、バスケットボールや、ラグビー、水泳に挑戦する、そういう運動動作を経験させてあげるべきだと考えています」

 自分自身の子供の頃の経験こそ、アスリートの育成には欠かせない環境だという発見が、ジャージーを脱いだ後の吉田義人の新たなチャレンジの背景にある。

 そして、子供たちのスポーツに取り組む環境を調べる中で、吉田氏はラグビーの深刻な現状も実感した。

「アカデミーを立ち上げるときに、僕が住む横浜市のデータを調べたんです。人気のある野球は300チーム、サッカーも200チームが登録されていた。では、ラグビーは何チームか。わずか4チームだった。息子もサッカーチームに入っていたけど、サッカーは登録しないで活動しているチームもたくさんある。神奈川県全部では何千というチームがあるんです。ラグビーは県の合計でも20だけです。子供にとって、不人気なスポーツになってしまっている。スポーツショップだってラグビー用品は扱わないですよ。ラグビーボールを売ってないと嘆く人もいますけど、そりゃそうでしょ。売れないもの置いててもしようがないですから。

 そういうこと考えれば残念だし、危機感を感じます。ラグビーというスポーツは、子供の時から人として何が必要なのかということを僕に教えてくれた。教育的観点からも、柱になりえるスポーツだと思う。だからこそ、まだ日本の社会に役立つものを持っているはずです」

 ワールドカップでの日本代表の活躍に不安はない。快足トライゲッターが見据えるのは、むしろポスト・ワールドカップの日本のラグビーであり、スポーツがこの国でどんな意義を示せるかだ。

吉田 義人(よしだ・よしひと)
1969年2月16日、秋田県男鹿市生まれ。小3からラグビーを始め、男鹿東中時代に東日本中学生大会を制して、秋田工高1年で全国制覇。明大では1年からWTBで活躍して、主将だった4年で全国制覇。88年に日本代表入りして、金星となったスコットランド戦、日本代表のワールドカップ初勝利となった91年大会ジンバブエ戦とトライをマーク。92年のNZ協会創立100周年記念試合で世界選抜に選ばれ、NZ代表からもトライをマーク。伊勢丹からフランスに渡りコロミエとプロ契約。04年3月に現役引退。09年から明大監督。14年から7人制男子チーム・セムライセブン監督。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)


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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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