阿部一二三が誇る勝因 “歴史的24分”で崩れなかった「自分の柔道」と「冷静さ」
丸山が誓った再起「まだ僕の柔道人生は終わっていない」
延長12分に入る直前、阿部に2つ目の指導。丸山の道着は右手の指を負傷した阿部の血で染まる。腕が、足が、何度も交錯した。そして訪れた決着の瞬間は突然だった。「相手がひるんで返しに来たところで決められた。しっかり状況を見た中での技だった」。勝因を問われると「しっかり」「冷静」という言葉を連呼。持ち味の前に出る柔道をしつつ、冷静に引く場面は引く。重ねた対策でつくった引き出しが生きた。
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4月の全日本選抜体重別選手権大会で決着予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会延期に。代替とされた12月のGS東京大会も中止となり、異例の一発勝負。コロナ禍で思うような練習ができない時でも、できることに集中した。「しっかり走り込んだ中でこの長い試合でもスタミナは切れなかった」。努力が実を結んだ。
もちろん、魂でぶつかり合った丸山の努力が否定されるわけではない。冷静さを欠いたとも言えない。戦前から予想されたように、自分が優位に立てる持久戦に年下ライバルを引きずり込んだ。ここにたどり着くまで、想像を絶する重圧を抱えたのは両者同じ。阿部が「本当にライバル。本当に丸山選手の存在が大きかった」と言えば、丸山も「ここまで肉体的にも、精神的にも強くなれたのは僕だけの力じゃなく、阿部選手の存在があったから」と称え合った。
阿部の妹・詩(日体大)は女子52キロ級で代表に内定しており、兄妹同時出場となる。「やっと内定が決まって自分の五輪のスタートラインに立った。兄妹で優勝するという目標へ、兄としても絶対に負けられない。東京五輪で輝きたい」。丸山も涙ながらに「まだ僕の柔道人生は終わっていない。これからも諦めずに前を向いて、もっと強くなれるようにしたい」と再起を誓った。将来、9度目の対決もあるかもしれない。
互いに人生を懸けて積み上げたものが衝突した濃密な時間。長い日本柔道史に刻まれた熱い24分間だった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)