貴景勝を生んだ埼玉栄相撲部 肥満にさせずに強くする、監督夫妻の“人情の食事学”
1日平均6150kcalを摂取、スポーツ栄養士も太鼓判を押す食事メニュー
埼玉栄相撲部員の1日のエネルギー摂取量は、平均6150kcal。夜食を食べる選手になると7000~8000kcalになる。調査の結果、入学時と3年時を比べると、リハビリ中の1人を除き、全員の体重・除脂肪体重がともに増加。つまり、食事を十分に摂りながら、脂肪を減らし、筋肉を付ける体作りに成功していることが実証された。
「山田監督が作る埼玉栄のちゃんこ(ちゃんこ鍋を中心とした食事)は、野菜、魚介、肉の種類も品数に比例して多いのが特徴。高タンパク低脂肪の和食が中心の、アスリートに適した食事です。これに適切な稽古、トレーニングと寮生活ならではの規則正しい生活によって、今回の結果につながったと考えられます」(橋本氏)
さて、毎朝5時に起きる山田監督の1日は、部員の弁当作りから始まる。
「別に特別なものは使っていません。中身は前の晩の残りと、卵、ウインナー、焼きそばといった定番のおかず。ただ、焼き方や味付けは、飽きないように毎日、変えています。例えば焼きそばは、肉をこんがり焼いて香ばしさを増したり、桜エビやカレー粉を入れたりで変化をつける。やはりおいしく食べてほしい、大きくなってほしいという気持ちがそうさせる。から揚げもうちの女房が作ったものは、驚くほどうまいですよ」(山田監督)
肉や魚は、鳥取県で料亭を営み、仲買人も務める監督の実家から、週3日、送られてくる。何しろ育ちざかりの生徒たちは、米だけで一人1日8合は食べる。当然、野菜や肉も食べる量は半端でなく多く、すべて、寮費で賄うとなると容易ではない。「でも、卒業生が米や調味料を持ってきてくれるのでとても助かっています。それがあるから、いつもちゃんとごちそうでいられます」(早苗さん)
夕飯の支度は、放課後の稽古の後、下級生が交代でちゃんこ番となり、監督と早苗さんを手伝う。野菜を切る、米をとぐ、足りないものを買い出しに行くなどの作業を、それぞれが行う。監督自身、一時も調理の手を休めず、「やれることをやれよ」と生徒たちに声をかける。
「今どき、古くさいかもしれない。でも、ちゃんこ番のときにパッパッと機転が利かなければ、相撲をしたって弱い。やるべきことを見つけて、動けるようになれば、その子は黙っていても強くなる。僕はそう思っています」(山田監督)
サラダ、お浸し、煮物、きんぴら。温めるだけで出せる作り置きおかずも、ぎっしり冷蔵庫に詰まっている。肉、魚、野菜料理に、熱々のちゃんこ鍋。あっという間に10種類のおかずが並んだ。
「生徒たちは当然、好き嫌いもある。だけど僕は『もっと野菜を食べろ』など言わない。『食えなきゃレギュラーになれないぞ』とはいいますけどね。スポーツが強くなる、体が大きくなるのも、すべてが神経だと思っています。
勉強も好きな先生の教科なら伸びるし、嫌いだったら伸びないでしょう? おいしいと思って食べるのと、いやいや流し込むのでは全然違います。たくさん食ったからって吸収しなかったら意味がない。だから、自ら食べるようになるまで待ちます。みんなの食べている姿を見ているうちに、千切り一本も食べられなかった子が、自然と野菜を食べるようになることはありますから」(山田監督)