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リーグワン・横浜キヤノンイーグルスの天野寿紀が届けた最後のクリニック

卒業式が迫った2月26日。強風が吹きつける三陸の港町・石巻に降り立ったのが、リーグワン・横浜キヤノンイーグルスのスクラムハーフ(SH)天野寿紀だ。シーズン真っ只中。遠征や練習など忙しいスケジュールの合間を縫ってまで東北の地を訪れたのは、一つの区切りを迎えるためだった。この日、2016年から7年間続いた石巻工業高校ラグビー部との「東北『夢』応援プログラム」最後の成果発表イベントが行われた。

天野寿紀が7年間続いた石巻工業高校ラグビー部との「東北『夢』応援プログラム」最後の成果発表イベントに参加【写真:村上正広】
天野寿紀が7年間続いた石巻工業高校ラグビー部との「東北『夢』応援プログラム」最後の成果発表イベントに参加【写真:村上正広】

日本トップのラガーマンが高校生に伝えたかったこと「チーム愛とは横にいる人への愛」

 卒業式が迫った2月26日。強風が吹きつける三陸の港町・石巻に降り立ったのが、リーグワン・横浜キヤノンイーグルスのスクラムハーフ(SH)天野寿紀だ。シーズン真っ只中。遠征や練習など忙しいスケジュールの合間を縫ってまで東北の地を訪れたのは、一つの区切りを迎えるためだった。この日、2016年から7年間続いた石巻工業高校ラグビー部との「東北『夢』応援プログラム」最後の成果発表イベントが行われた。

 被災地の子供たちの夢や目標を年間を通して応援しようと、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」。憧れの花園出場を目指す石巻工ラグビー部は2016年から参加し、当時現役でキヤノンイーグルスに所属していたラグビー元日本代表主将の菊谷崇氏がプログラムに賛同。チームメートだった天野らも加わり、「夢応援マイスター」として目標を達成できるように継続的なサポートをしてきた。

天野はこの日集まった約20人の部員たちに、あえて強度の高い練習を課した【写真:村上正広】
天野はこの日集まった約20人の部員たちに、あえて強度の高い練習を課した【写真:村上正広】

 宮城県から花園行きのチケットを手に入れるには、27大会連続出場を誇る強豪・仙台育英高校を倒さなければならない。「打倒・仙台育英」を合言葉に歩んだ道のりでは、時に接戦を演じ、時に大敗を喫した。未曾有のコロナ禍を挟みながらも続いた7年間で、菊谷氏や天野ら日本トップのラガーマンたちは何を伝えたかったのか。

 この日、集まったのは1、2年生を中心とする約20人の部員たち。卒業後もラグビーを続ける3年生の前主将・阿部倫太郎くんらも参加した。都合がつかず石巻を訪問できなかった菊谷氏に思いを託された天野は、最後のクリニックで部員たちにあえて強度の高い練習を課した。

ハードな練習の中に隠されたチームプレーの本質とは【写真:村上正広】
ハードな練習の中に隠されたチームプレーの本質とは【写真:村上正広】

ハードな練習の中に隠されたチームプレーの本質

 動きやスキルを確認するドリルと、2チームに分かれて行う実戦形式のゲームを交互に繰り返しながら、合間にチームトークを挟んで修正ポイントを話し合う。チームトークの時間は試合中のウォーターブレイクを意識した30秒間。限られた時間でいかに有効な意見交換ができるかがポイントとなる。その後は全員で一つの輪になり、「キャリアを焦りすぎている」「声掛けやノミネートをしっかりする」などチームミーティングで出た意見を発表。この時、天野が何度も強調したのが「コミュニケーションの大切さ」だ。

 いくら優れた戦術やスキルを持っていても、チーム内でのコミュニケーションが図れていなければ何の意味もなさない。「みんなの顔には口が一つで耳が二つある。これは伝えることの2倍、聞くことが大事だということ。目も二つあるのだから、冷静に周りの状況を見ること。それがいいコミュニケーションを生み、いいラグビーに繋がっていく」という天野の呼びかけに、部員たちも応えようと懸命に動いた。

 続いて行われたオフロードパスの練習でも、キーポイントとして挙げられたのはコミュニケーションだ。天野は体勢を崩しながらボールを繋ぐオフロードパスの極意を伝授。むやみにボールを投げるのではなく、「サポートに入る選手と目があったらボールを渡すこと」を大原則とし、アイコンタクトができなかった場合はパスせずに、ラックなどに持ち込むようアドバイスした。

 ウォーターブレイクを挟みながらも、息の上がる強度の高い練習を続ける部員たちに変化が見られたのは、練習開始から1時間が過ぎた頃だ。チームトークと全体発表を繰り返す時に、部員たちは隣の人の腰に手を当てながら円陣を組むようになった。天野の助言を受けたものの、円陣の中ではさらに活発な意見交換が生まれ、チームの一体感はグンと増した。

オンラインで部員から寄せられた質問に丁寧に答える菊谷崇氏【写真:村上正広】
オンラインで部員から寄せられた質問に丁寧に答える菊谷崇氏【写真:村上正広】

「チームにほしいと思われるのはどんな人材?」

 練習を終えた後、視聴覚教室で質疑応答を実施。ここには菊谷氏も東京からオンラインで参加し、部員から寄せられた質問に丁寧に答えた。「チームの流れが悪い時はどんな試合運びをすればいいのか」「ディフェンスをセットする時に意識することは」など実戦に即した質問が出た一方、「プレー以外の面で、チームにほしいと思われるのはどんな人材か」という質問もあり、二人から興味深い回答が寄せられた。

菊谷「まじめな人。ひたむきにプレーできて行動できる人は、どこに行っても重宝される。その姿勢は必ずみんなに響きます。(天野)寿紀は常にハードワークを重ね、チームワークに徹している。だから、キヤノンイーグルスでは沢木(敬介)監督に評価されています」

天野「ハングリーさや貪欲さは大事。常に学ぶ姿勢を持っている人が求められると思います。チームのことを思って行動できるかが大切になります」

 布施雅博監督から「チーム愛を高めるにはどうしたらいいか」という質問されると、菊谷氏は「大きなきっかけはない。みんなで毎日を積み重ねることで、お互いに対する思いやリやチームに対する愛も生まれます」と回答。さらに、最後のメッセージでもチーム愛について触れた。

最後に託された「チーム愛」の極意を胸に、今年もまた「打倒・仙台育英」にチャレンジする【写真:村上正広】
最後に託された「チーム愛」の極意を胸に、今年もまた「打倒・仙台育英」にチャレンジする【写真:村上正広】

7年の締めくくりに伝えた「チーム愛」とは

菊谷「7年間、長い間ありがとうございました。最後に布施先生から『チーム愛』という質問があったのは深い話だなと思います。愛とは、自分の想いを持つことではなくて、周りの環境がどうあるべきかを考えながら他者に対してアプローチをすること。恋は自分の想いを伝えることだけど、愛は相手や周りがどうしたら幸せになるかを考えることです。社会に出ても、大学に進学しても、周りのことをどう考えられるかが大切。高校3年間でチームをどう愛せるか、チームメートをどう愛せるか、どう楽しいことができるか、それが後の人生に生きてくると思います」

天野「長い間、このプログラムに携わらせてもらって、僕自身も感じる部分や刺激を受けることがたくさんあり、いい経験になりました。それが今も現役でいるモチベーションにもなっています。ここにこうやって集まり、このメンバーでやることには意味があると思います。チーム愛についての質問も出ましたが、チーム愛とは自分の横にいる人を愛することであり、仲間を愛すること。仲間のことをよく知って、お互いのためにラグビーをするようになれば、自然と強くなれると思います。もし思うように勝てなくても、充実した時間になるはず。これからもラグビーを通じて、お互いを知り、高め合っていってください」

 部員も夢応援マイスターの二人も充実の笑顔を浮かべ、最後の写真撮影。プログラム終了の記念として、天野からキヤノンイーグルス全選手のサイン入りジャージが送られた。

 長いようでアッという間に過ぎた7年の歳月。これまでプログラムに参加した部員たちにとって、夢応援マイスターたちと共に過ごした時間は大切な思い出となり、受けたアドバイスは一生の宝物となったはずだ。最後に託された「チーム愛」の極意を胸に、今年もまた「打倒・仙台育英」にチャレンジする。

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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