米国で英語習得の日本人コーチ 渡英後に戸惑った“サッカー用語”の奥深さ「日本だと野球に近い」
多くの国から集まった同期受講生とディスカッション
用語を理解しているかどうかは、その瞬間の微妙な反応で発した相手に伝わる。
「最初のうちは我慢強く待ってくれたり、話を巻き戻して説明をしてくれたりもしますが、いつまでもそんな調子ではディスカッションに参加する相手にストレスを与えることになる。だから相手の真意も把握し、そういう用語も駆使しながら、自分の考えをスラスラと伝えていく。そうでなければディスカッションは、成立しませんからね」
それでも比較的「ラッキーだった」と感じるのは、人種差別撤廃の流れもあり、FA(イングランドサッカー協会)も外国人指導者たちに対しても「もう少しオープンマインドで接していこう」という気運が高まっていたことだった。
こうした背景もあり高野の同期受講生たちは、アイスランド、ノルウェー、ドイツ、米国、カナダなど様々な国から集まってきていた。
「しかし、やはりイングランドの人たちには母国であるがゆえに強固なアイデンティティがあり、まずは自分たちのDNAを大切にしながら、もし他国に新しいアイデアがあるなら取り入れていこうというスタンスでした。もちろん少しずつ柔軟に変化しつつあるのは確かで、私もA級を受講している時には『日本はどういうところで、どんなやり方をしているんだ。教えてくれ』と声をかけられました。でもいくら強くてもいきなりスペインの真似をするということはなく、くれぐれも良い部分があれば、そこだけ取り入れていこうという姿勢でした」
幸い受講生には同世代が多く、ディスカッションには入りやすかったそうだ。講義を離れてもランチやディナーの席で延長戦を続けるなど、密な関係を築けたのも貴重な経験となった。
「サウサンプトンで指導をしていた時には、会長とのやり取りもあり、そうなればビジネスのことを突き詰めて話すこともある。また監督やスタッフとのディスカッションでも、サッカーに限らずビジネスに話が及ぶことも少なくありません」
サッカーの母国で文化と言語を深く理解し、その上で先見性を持って未来への道を探る。プロライセンスを取得できるのは、こうした能力が卓越した人物に限られた。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)