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Jリーグ残留か海外挑戦か あの日韓W杯前年、川口能活が下した“前例なき決断”の裏側

欧州で伸ばしたGKの深み「だから、僕は43歳まで現役を続けられた」

 川口さんがチームに加わっても守備の課題は解消されず、加入から3か月後のFAカップで4部チームに敗北を喫すると、その“スケープゴート”にされてしまう。

 オーナー指令によってリザーブチームでのトレーニングすら許されず、彼はユースの選手と一緒にトレーニングすることを課せられる。日本に帰国する可能性を伝えたメディアもあった。しかし敗退の責任を背負わされた疑問を、どこかにぶつけたところで何も始まらない。答えは一つ。与えられた環境で、やるしかなかった。

「帰国を考えたことは一切なくて、この状況をどう切り抜けるか、どうやり抜くかということしか考えなかったですね。逃げることはしたくなった」

 腐ることなくトレーニングで自分を高めていく時間にしていく。サッカーに対する真摯な姿勢を、現場は高く評価してくれていた。特にアラン・ナイトGKコーチの存在は大きかったという。

「アランさんは『ヨシのパフォーマンスは悪くない。今やるべきことを続けていけばいい』と常に励ましてくれましたし、心の支えでした。彼はプレーヤーズファーストの人。苦しい状況でもらうコーチの一言が、助けてもらった瞬間って、やっぱり忘れられないですよ。アランさんだけじゃなくてユースチームの監督、(自分の獲得に携わった)レドナップさんを含めて周りの人に支えられてこの挫折から這い上がっていこうと力が湧いていきました」

 シーズン終盤、強化責任者のレドナップが監督に就任したこともあって彼はトップチームに復帰する。もし投げやりになっていたら、這い上がれなかったはずである。GKとしてレベルアップしたい――。置かれた環境にめげなかったのも、その思いが川口さんには強くあったからだ。

 アランGKコーチは当時6部チームに所属する現役でもあった。アランから学び、他のGKのプレーもしっかりと見るようにした。シュートストップなど細かいスキルのみならず、間のつくり方の大切さも感じ取った。

「GKにビーサントという40歳を超えた選手がいて、プレーには深みがありました。間のつくり方で、チームに安心感を与えられる。僕は身体能力や技術、自分の感覚で勝負してきましたけど、深みが大事なんだと気づかされました。このときの経験があるから、僕は43歳まで現役を続けられたんだと思います。欧州に行っていなかったら、ここまでやれなかったかもしれませんね」

 自分のスキルを磨きつつ、GKの「深み」を伸ばしていく濃厚な時間となった。

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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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