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ラグビー歴3週間の196cm、130kg好素材も “原石”発掘プロジェクトが面白い

身長196センチ、体重130キロの甘糟日向選手(左)のラグビー歴は驚きの「3週間」とのことだ【写真:吉田宏】
身長196センチ、体重130キロの甘糟日向選手(左)のラグビー歴は驚きの「3週間」とのことだ【写真:吉田宏】

W杯がきっかけでラグビーを始めた選手も参加「めっちゃ熱かったです」

 今回の参加選手の中で、このキャンプを象徴するような背景を持っていたのがLO甘糟日向(あまかす・ひゅうが)選手(東京・三田国際学園高)だ。ラグビー界では全く無名だが、戸板女子高が2015年に男女共学の中高一貫校に転じた高校で、身長196センチ、体重130キロの甘糟選手は、なんとラグビー部に入部して「3週間くらい」(本人)という経歴だから驚く。

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 ラグビーを始めた理由を聞くと「ワールドカップ日本大会を見ていて、大会が終わってから友人が『めっちゃ楽しそう、やろう!』というから、俺もやりたいと思って入部したんです」と満面の笑顔で語ってくれた。

 3日間のキャンプを終えた印象は「この合宿には、強くなれるなら行きたいという気持ちで参加しました。『やってやるそ』という気持ちで参加したんですけど、レベルが高い選手ばかりで、その選手を越えてやりたいとモチベーションが上がりました。いい経験になりました。ラグビーってすごく熱いスポーツだし、やってみると怖いというよりも、楽しさが勝っちゃいました。もう、わくわくドキドキで『おりゃー』って感じで突き進んでいった感じです。フルコンタクトでバチバチにやり合いましたけど、あれもめっちゃ熱かったです」と恐れ知らずで家路についた。

 キャンプを視察していたある大学関係者は甘糟選手の練習ぶりを見ながら「全くの原石。でも、サイズは間違いない魅力。鍛え甲斐のある素材」と語っている。通常なら、大学1部リーグのチームには縁のない経歴だが、ビッグマンキャンプに参加したことが、この原石の新たな門戸を開く可能性につながる。これこそが、野澤コーチの思い描いた異色のキャンプの目的でもある。

「僕ら指導陣が選手を成長させるのはもちろんなんですけど、それ以上にこのキャンプを機会に大学から誘われて、4年間高いレベルでラグビーを続けられることが重要だと思うんです。強豪校に入るのってそう簡単じゃないですから。

 でも、甘糟なんて196センチ、130キロですよ。見たことないようなサイズです。そういう子がラグビーをやってくれたタイミングを逃さずに、このキャンプに呼ぶ。もし大学のリクルート担当の目に止まれば、もっといい環境で能力を伸ばせる。あとは本人がどこまで頑張れるかです」

 このキャンプだけで参加選手をトップ選手に育成することはできない。キャンプを機会に、もし参加選手が強豪校から声をかけられれば、さらに原石が輝きを増す可能性がある。こんな思いが野澤コーチらスタッフを突き動かしている。まさにラグビー界に新しい苗を植える活動であり、新しい可能性の門戸を開けるドアのような役割を、一日2000円の日当で熱心に取り組んでいる。

 ワールドカップ前、そして空前の盛り上がりをみせた大会中、大会後も、多くの関係者らが“レガシー(遺産)”という言葉を使っている。だが、忘れてはいけないのは、耳響きのいいレガシーという言葉を乱発しても、何も変わらないということだ。レガシーというお題目のもとで、自分は何がやりたいのか、何が出来るのか。この具体的な目標を実行に移さなければ、レガシーも夢物語で消え去ってしまう。

 ワールドカップ戦士が参加するイベントには大挙するメディアも、協会関係者もほとんどいない年末の山深いグラウンドで、どこまで育つかはまさに未知数の苗に、水と肥料を惜しみなく注ぎ続けた“ビッグマン”スタッフたちこそが、日本ラグビーのレガシーを紡いでいると学ばされたキャンプだった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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