引退で無職に、13kg減量、兄貴分の死「自分に嘘をついた」 比嘉大吾が別人に変わった苦闘3か月
ボクシングのWBA世界バンタム級(53.5キロ以下)タイトルマッチ12回戦が24日、東京・有明アリーナで行われ、王者・堤聖也(角海老宝石)と挑戦者の同級4位・比嘉大吾(志成)が激突した。2020年に一度は引き分けた、高校時代からの親友同士の決着マッチ。同学年の2人が歩んだそれぞれの軌跡を「比嘉編」「堤編」「完結編」の3回にわたってお送りする。第1回は「比嘉編」

堤聖也VS比嘉大吾・親友マッチの軌跡「比嘉編」
ボクシングのWBA世界バンタム級(53.5キロ以下)タイトルマッチ12回戦が24日、東京・有明アリーナで行われ、王者・堤聖也(角海老宝石)と挑戦者の同級4位・比嘉大吾(志成)が激突した。2020年に一度は引き分けた、高校時代からの親友同士の決着マッチ。同学年の2人が歩んだそれぞれの軌跡を「比嘉編」「堤編」「完結編」の3回にわたってお送りする。第1回は「比嘉編」
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比嘉は昨年9月の世界挑戦に失敗し、引退を決意。2か月半後に再び舞い込んだチャンスに悩んだ末、復帰を決めた。サボり癖のある自分に「嘘をつく」と言い聞かせ、本気で追い込んだ3か月間。一度はゼロになった体と心をつくり直し、王者に挑んでいた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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暑さの残る沖縄の空は、澄みきっていた。比嘉は9月3日の世界戦に敗れ、故郷で挨拶回り。世話になった人たちと顔を合わせた。「やりきりました。辞めます」。心にも曇りはない。練習用具は処分した。
29歳。義務感に駆られても、後回しにする就職活動。「社長になりたいな。お金持ちがいい」。幼い青写真には、道筋はおろか業種すらも描かれていない。「ボクシングは今しかできないよ」。そんな周囲の言葉は響かなかった。
10月13日、世界戦のリングには親友が立っていた。下馬評を覆す魂の12ラウンド。高校時代に敗れた井上拓真(大橋)に12年越しのリベンジを果たし、チャンピオンベルトを抱きながら泣いていた。比嘉も予想を覆された。「そこで勝ってくる堤の凄さ。俺にないメンタルを持っている」。1週間後、一緒に食事に出かけた時に引退を伝えた。
自堕落な生活で時間だけが過ぎていく。ボクシング映画「ロッキー」を初めて見てみた。ただの暇つぶし。うだつの上がらなかった30歳の主人公が突然舞い込んだ世界戦へ、人が変わったように自分を追い込んでいく。「これ以上見たらやりたくなる」。第3作を前に手を止め、心に蓋をした。
「ずっとダラダラするのも楽しかった」。走ってすらいない、160センチの体は膨れていくばかり。66キロになった。「このままだとやばい。何か仕事を見つけよう」。腰を上げた矢先だった。
11月、届いたのが堤戦のオファー。「1週間、考えさせてください」。悩んだのはその道が過酷だから。中途半端な気持ちでは立てない場所だと知っている。葛藤する中で気がついた。
「何もやっていない間にボクシングが好きになってしまった。ボクシングをやっている方が楽しい」
もう一度、故郷へ飛んだ。「真剣にやります」。みんな喜んでくれた。
ようやく心に火がついた時、知人から連絡が来た。「良くない知らせがあります」。思わぬ訃報だった。