楢崎正剛、24年間の告白 「声が届かなくても声を出す」から変わったGK人生の真実
「自分が、自分が」ではなかった楢崎を変えたマザロッピの言葉
「マザロッピは選手としても大舞台を踏み、いいことも悪いことも経験してきた。彼の指導には説得力があり、すべての話が身になった」
楢崎はGKに必要な能力の一つに「存在感」を挙げる。GKはフィールドのボスでいなければならない。しかし、普段の彼の性質はどうやら真逆のようだ。
「僕は『自分が、自分が』という性格ではないし、加えて、自信がないというか、自分に対しては長所よりも欠点をみてしまうタイプ。失点や負け試合のたびに『自分がもう少し何かできたんじゃないか』『自分が止めていれば問題がなかったのに』とか、思い込んでいた。たとえ原因がほかにあったとしても、ちょっとしたミスだったとしても、いちいち、打ちひしがれていました」
そんな楢崎にマザロッピは「もっと自信を持て」と言い続けた。下を向いていたら自信がないように見える。顔を上げて、大声で言葉を発し、皆を鼓舞しろ。そういう姿を見せないと、GKは務まらない、と。
「とにかく、もっといろんな指示を出し、アピールして、存在感を出せ、と言われ続けました。フィールドが一番見えているGKにとって、味方を助けるためのコーチングは重要な仕事の一つ。僕自身もそれはやっていたつもりだったが、当時はまだ若手。先輩たちに気後れして、後ろから指示を出すことが難しかった。『自信がなくても、ハッタリでいいから声を出せ!』『何でもいいからしゃべっとけ!』と、よく言われましたね(笑)」
その言葉通り、声を出し続けた。チームが攻撃に転じ、自陣でプレーしていない時間も声を上げ、恐らく聞こえていない味方に声をかけ続けた。
「これが良かったですね。たとえ声が自分にしか聞こえていなくても、それが集中力につながった。味方が遠く敵陣でプレーしている間も声を出し続けることで、常に試合に関わっている、常に参加している気持ちが強くなりました。GKにとって、自分を強く見せることは必要な力。自信なさげな人には、チームメートもゴールは任せられないですからね。今ならばそれがよくわかるし、今、目の前に当時の自分がいたら『おまえにはそこが足りないよ』と指導しますよ」
楢崎は「今の若い選手が羨ましい」という。
「自分が同じ年齢の頃と比べると、今の若い選手たちは、ちゃんと教わってきていることがわかる。長年、プロを続けても取り戻せない部分があるなあと感じます。ただしその半面、似たようなタイプの選手が多いと感じることもある。そこが、サッカーの指導環境が進化しているなかで出てきた、次の課題になると思います」