「違った50代が見えてくる」 海外挑戦中のバスケ元日本一HC、“できない自分”の先に描く未来
バスケットボールBリーグの川崎ブレイブサンダースは、前身の東芝時代から数々のタイトルを獲得してきた名門チーム。2016年9月のBリーグ発足以降も、毎シーズンのように優勝候補に挙げられてきた。そんな国内屈指の強豪を、ヘッドコーチとして5シーズン率いた佐藤賢次氏は、退任後の昨夏に周囲が驚く決断をする。ドイツのクラブ、MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクのアシスタントコーチ就任を発表。44歳にして、自身初となる海外での指導者生活をスタートさせた。

川崎ブレイブサンダース前HC・佐藤賢次氏インタビュー後編
バスケットボールBリーグの川崎ブレイブサンダースは、前身の東芝時代から数々のタイトルを獲得してきた名門チーム。2016年9月のBリーグ発足以降も、毎シーズンのように優勝候補に挙げられてきた。そんな国内屈指の強豪を、ヘッドコーチとして5シーズン率いた佐藤賢次氏は、退任後の昨夏に周囲が驚く決断をする。ドイツのクラブ、MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクのアシスタントコーチ就任を発表。44歳にして、自身初となる海外での指導者生活をスタートさせた。
ドイツで刺激的な日々を送る佐藤氏を1月初旬にインタビュー。後編ではアシスタントコーチとしてこなしている業務の内容を聞きながら、異国の不慣れな環境だからこそ見えてきた自身の姿や今後のキャリアビジョンについて、率直な思いを明かしてくれた。(取材・文=青木 美帆)
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BBL(バスケットボール・ブンデスリーガ)1部に所属するMHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクのコーチングスタッフは、ヘッドコーチ(HC)のジョン・パトリック、アシスタントコーチ(AC)のラーズ・マゼル、そして佐藤賢次の3人体制。Bリーグではポピュラーになりつつあるビデオコーディネーターやスキルコーチなどの専門スタッフがいないため、ACの業務は非常に多く、多岐にわたる。
佐藤が主に担っているのは、対戦チームのスカウティングと自チームのレビュー。試合映像を見て、対戦相手と自チームに関する情報をひたすら集め、それをまとめてHCとACの2人に渡す業務のかたわら、戦術やHCの意図を噛み砕いて選手に伝える役割も担う。中2、3日の試合日程に合わせ、分析する対戦相手の試合映像は最低3試合、多くて5試合。おそらく全世界のACがそうであるように、睡眠時間を削っての激務だが、佐藤は「久しぶりに楽しいですよ」とさらりと言った。
「今は『FIBAヨーロッパカップ』(ヨーロッパ25か国のプロクラブが出場する国際大会)に出ていることもあって、強制的に膨大なチームの試合を見ることになるのですが、いろいろなバスケットに触れたくてこっちに来た自分にとっては、すごくありがたいことで。いろんな国のいろんな選手を見られるし、コーチやお客さんのスタイルも知ることができる。客席から火のついたものがコートに飛んでくるようなアリーナもあるのですが、そういうことも含めて自分の身になっているなと実感しています」
ちなみに、インポートプレーヤーが多いBBLの公用語は英語。語学面での苦労を尋ねると、佐藤は次のように答えた。
「現役時代から外国籍選手と日常的にコミュニケーションを取ってきたおかげで、英語には慣れていました。ニック(ニック・ファジーカス。昨季限りで現役引退した大エース)というおしゃべりさんがずーっと喋っていたので、ひっきりなしに英語が耳に入ってくるというか(笑)。今は聞くほうは、ほぼほぼ問題ないですが、細かいニュアンスを伝えるにはまだ時間がかかるかなという感じで、もどかしいですね。HCと選手の橋渡しと言いますか、HCの真意が選手まで届かない時に『今のはこういう意味だよ』とか、『コーチはこういう風にしてほしいんだよ』とフォローをすることも自分の役割だと思っているんですけど、無力さを感じることも多いです」