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エディー日本、夏の7試合で顕著だった「186.3」 世代交代に舵切り、日本の弱点ポジションに“隠し球“

期待の新戦力、さらに日本の弱点LOなどに“隠し球”の存在も

 2027年へ向けて段階的に過熱していくであろうポジション争いへの“挑戦権”を掴みかけているのが23年Wも経験したFL下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)とCTB/WTB長田智希(埼玉WK)だろう。下川は運動量、タックルとジャッカル(密集戦でのボール争奪)が求められるオープンサイドFLでテストされて5試合に先発。好判断のタックル、接点でのファイトに加えて、持ち前のスピードと運動量を生かしたサポートランから3トライをマーク。長田はCTB1試合、WTBで3試合に先発して4トライを奪っている。

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 長田の起用に関しては、3年後のW杯へ向けたエディーの戦略も見ることが出来る。アメリカ戦後のコラムでも触れたように、NZら世界の強豪は複数ポジションでプレー出来るユーティリティー選手の起用を模索している。これは対戦相手の戦術やスタイルに対応して、控えメンバーのFWとBKの配分に柔軟性を持たせたいという、W杯のような短期決戦では重要さを増す戦略的な考え方からだ。エディーも3年後のW杯を見据えて、SO/FBでのテストを続ける李、山沢拓也(埼玉WK)らと共に長田をCTB/WTBで起用する可能性も模索している。

 他にもBK勢ではツイタマを試合途中にWTBからFBに下げて起用。“エース”ライリーも、過去にWTBでのプレー実績を持つ。FWでも、ジョージア戦でリーチを大学以来経験のないLOで先発起用したのも同じ考え方からだ。LO兼FLのファカタヴァアマト(リコーブラックラムズ東京)も、すでに両ポジションで実績を積んでいる。現時点ではメンバーを外れるジャック・コーネルセン(埼玉WK)もLO兼FW第3列としてテスト経験を持つ。このようなユーティリティープレーヤーを多くメンバーに入れることもトーナメントを勝ち上がる上では重要な意味を持つ。

 下川、長田のこれからの可能性に戻るが、下川にとってはチームでも最も厳しい争奪戦が見込まれるポジションでの戦いが強いられる。現行メンバーに加えて、先にも挙げたリーチ、タタフ、そして様々な理由で代表離脱中のベン・ガンター(埼玉WK)、姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)、コーネルセン、ピーター・ラブスカフニ(S東京ベイ)らが、いつ代表に復帰しても文句のないレベルのポテンシャルを持っている。ここまでの下川のパフォーマンスは一定の評価を受けているだろうが、他の候補者を差し置いて代表リストに生き残るには、プレー面で1つ大きなアドバンテージを持つことが課題になりそうだ。長田もユーティリティーとゲーム理解度の高さなどでは評価を得ているはずだが、序盤戦の怪我で代表を離れたCTBサミソニ・トゥア(浦安D-Rocks)らフィジカリティーでは上の外国出身選手との選考レースの中で、どんな強みを見せられるかが今後のサバイバルのキーポイントになるだろう。

 これまでのコラムでも成長を紹介してきたSH藤原、SO李についても、下川、長田らと同様に、代表生き残りのための手懸りを掴んだというのが現状だろう。李については、実績のある松田力也(トヨタ)が、コンディション不良などもありエディージャパンでのプレー時間が不十分な中で、この先どこまでチームにフィットしてくるかも鍵を握る。「超速」を意図したゲームメークが見えてきた一方で、まだ散見される失点の危機を招くような判断ミスをどこまで減らしていけるかが課題になる。藤原にも、齋藤直人、福田健太という“潜在的”な実力者がいる一方で、若手として起用される藤原自身が、エディーも高く評価するSH土永旭(京都産業大4年)、高木城治(同2年)ら大学生勢に追われる立場でもある。

 最後に、個人的な意見だが“隠し球”として期待の選手にも触れておこう。過去のコラムでも触れたように、相手から嫌がられるプレーヤーとしての資質を持ち併せる選手の中で、まだ固定されない司令塔では35歳の田村優(横浜キヤノンイーグルス)は経験値、ポテンシャルを十分に持ち併せている。相手の裏を突くようなパス、キックと、国内のSOとしてはトップクラスのスキル、判断力を持つ。CTBからFBまでカバーするユーティリティーと相手防御のギャップを突く感覚で、他のフィニッシャーとは異なるクオリティーを見せるメイン平(BR東京)も超速の中で試してみたい。

 そして、ワールドラグビーの規約緩和に伴い27年までに代表資格を得るであろう、まさに隠し球の好素材も少なくない。世界のベスト8を争うレベルで日本の弱点でもあるLOでは、ルアン・ボタ、デービッド・ブルブリンク(共にS東京ベイ)という身長200cm級の強力コンビが揃い、リーグワン王者・BL東京にもジェイコブ・ピアースという、フィジカルゲームだけではなく高いラグビーセンスを持つ存在もいる。BKも、リーグワンでファンタジスタぶりを如何なく発揮するSOアイザック・ルーカス(BR東京)も十分に“怖さ”を持った司令塔だ。

 代表選考に関してのエディーの「なるべく日本で生まれた選手を使いたい」「若い選手を発掘したい」という発言を踏まえると、この選手たちの多くにハードルはある。だが、彼らが代表に加わることで、エディーが志向する若手の選手たちに、フィジカルやスキル、判断力という経験値の面で大きな学びになる期待は十分にある。エディーが力説する世代交代は正論だろう。だが、その新たな世代が3年後までにワンステージ上のテストプレーヤーに成長するためには、周囲の選手らからの化学反応も欠かせない。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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